当事者―●●れた男の告白―
「えっと……ゴメン。やっぱり何言ってるかわかんない……」
「だよねぇ……」
カズキの言葉に、俺も頷く。
俺だって自分で何言っているかわからない。
――何時も通り夕飯食べてたら、知らない男がいきなり女の子連れて「お前の女、貰ったから」って。何もできなかった。「いやいや、人違いです」って言えれば良かった。
男の方はペラペラと喋ってるだけだったけど、ちょっと口挟んだら睨まれたし。暴力とか振るわれるかと思って怖かった。
「……はぁ、良かったぁ」
カズキが大きく溜息を吐いた。
「良くないよ。変なのに絡まれて、もうこの店来れないよ……」
「え、あ、ああ……って、そういやさっき言ってた『夕飯食べられなくなる』って話って……」
「そうそう。あんな事あったらこの店使えないよ。別の店探さないといけないし、でもファミレスとかだったら結構お金かかるし。カズキさっき金欠だって言ってたから、無理に付き合わなくても大丈夫だよ。俺の方は親から夕飯代として貰っているからいいけど、金欠だっていうのに無理に付き合わせるわけにはいかないしね」
「……そういうのはちゃんと説明しろっての。てっきり彼女優先になるから、って話だと思った」
「いや、今まで俺に彼女なんて居なかったの知ってるでしょ?」
「そうだけどさぁ……」
不満げに言うカズキだったが、ふと何か気付いたように表情を変えた。
「そういやさ、男の方は知らない奴だったんだろ?」
「うん、全く。多分大学生っぽい感じだったけど」
「女の方は?」
「あー……全く知らない、ってわけじゃない」
一応、その女の子は知ってはいる。この店でよく一緒になる事が多かった。
カズキが居ない時は、俺はカウンター席を利用している。外が良く見える席なのだが、その時やけに隣になる女の子が居たのだ。同じ制服で、長い黒髪で眼鏡をかけた地味なタイプの子。同じ制服だから同じ学校なのだろうが、何処の誰かとかはさっぱりわからない。
「というわけで、顔は知っているけど名前とか何処の誰かとか全然知らない子。同じ学年かどうかすらわからない」
「へぇー、そうかー」
その事を話すと、カズキがじとっとした目で俺を見る。何処となく、不機嫌そうな顔である。
「何その信じてない感じの言い方?」
「別にぃ?」
「いや、本当だって。その子と話した事ないんだけど」
精々会釈したくらいだろうか。帰る時にちょっと頭下げる程度の。
「で、お前から見て、その子はどうなんよ?」
「どう、って?」
「可愛いとか、美人とか、好みのタイプ、とかあるんじゃないの? 毎度毎度、人がいないときに隣り合ってるんだから、悪い印象は無いんじゃない? ひょっとして、少しは好きだったりとかあったんじゃないの?」
「はぁ?」
一体何を言っているのやら。話した事も無いのに、別に好みとか何もないだろうに。
――そもそも、俺が好きなのはカズキなんだから。
「全く……あれ? どしたの?」
すっかり氷が溶けたジュースを口にしたら、カズキが変な顔をしていた。顔が真っ赤と言うか、驚いて目を見開いているというか、「え、ちょ、え、おま、え、え?」と動揺しているのが丸出しである。
――あれ、ひょっとして、やらかした?
「あのさ、俺、今口にしてた?」
「おま、おまえ、おま、え、えっえっえぇ?」
見た事ない顔で動揺している。ヤバい、可愛い。
けど口滑らしたか。相当油断していたようだった。
冷静に振る舞っているけど、内心「やらかした」ってこっちも心臓バクバクだからね?
――えぇい、もう自棄だ。
俺はカズキの手を取った。カズキは身体をビクンと震わせて、あわあわとしながら俺を見る。
「――うん、いい機会だからはっきり言うわ」
「にゃ、にゃにを?」
「確かに何度もその子とは隣になったけど、好きになるとかありえないから」
「にゃ、にゃんで?」
「だってさ、俺さ、ずっと好きな女の子がいるんだ。小さい頃から、ずーっと好きな女の子」
「す、すきなこ?」
「その子さ、うちの両親が共働きだからってさ、夕飯一人で外食ばっかだっていうのに、寂しくない様にわざわざ付き合ってくれてくれるような優しい子でさ」
「そ、そんにゃこと」
「その子の名前、
そう言って、俺は――
「う、うそだぁ……」
「嘘じゃないよ」
「だ、だって、だって、私、
「じゃあ昔見たいに
「そ、それはやめろよぉ……! そ、それに、私……
「そこがいい」
「おい」
いかん、つい本音が漏れてしまった。
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