当事者―●●れた男の驚愕―

 話をしている間、ずっとカズキは何処かそわそわとして落ち着かない様子だった。何かを言おうとしているというか、チラチラとこっちを見つつポテトやジュースを口にしている。ずっとそれを繰り返しているせいか、既にジュースが空になり、ストローからは溶けた氷の水を啜る音しか聞こえてこない。


「それもう空じゃない?」

「え? あ、そうか?」

「新しいの買ってくる?」

「あー、いや、別に、うん」


 どうにも会話になっていない感じである。

 ふと、時計を見る。まだ俺の親が帰ってくる時間には早いが、そろそろ店を出て帰ろうか。普段はカズキは親が帰ってくる時間まで居てくれるが、何か今日は様子がおかしい。さっきもあんなことがあったし、この店にいるのもちょっと居た堪れない。今日は早く帰れってことだろうか。


「んー……今日はもう帰ろうか?」

「え、あ、もうそんな時間か?」

「いや、まだ早いけどさ。なんかカズキの様子もおかしいし」

「え、そ、そうか? 何時も通りだけど……」

「いや、なんか心非ず、って感じだから……あ、そうだ。ちょっとこんな感じで夕飯食べるの、できなくなりそうだから。難しい様だったら付き合わなくても大丈夫だから」


 そう言うと、カズキは「え!?」と驚いた様子を見せた。カズキとこうやって過ごすのは楽しいが、あんなことがあった後だとこの店、もう来れないからなぁ。今度はファミレスとかになるだろうけど、そうするとお金がかかるから、無理に付き合わせるのは申し訳ない。値段がお手頃な店って、ここファーストフード店くらいなんだよなぁ……

 小さく溜息を吐くと、カズキは「あー……うー……」と言葉を選んでいるようだが、やがて「……うん」と頷くと、口を開いた。


「あ、あのさ。それって、その、が理由?」

「え!?」


 思わず大きな声を出してしまった。ひょっとして、さっきの事を見られていたのだろうか? だからなんか余所余所しい態度だったのだろうか。

 俺が「ま、まぁ」と頷くとカズキは「やっぱり……」と小さく呟いた。


「み、水臭いなぁ! 彼女出来たなら言えよ!」

「ん?」


 カズキが笑いながら言う。その笑い方は何処か無理をして笑っている感じだった。


「そうだよなぁ! それなら彼女を優先しないとな! まったく彼女は大事にしろよ!」

「え、ちょ、待って待って」

「ああいいいい! これ以上何も言わなくても! 大丈夫わかってるから! わかってるから――」

「いやいやいや、俺、彼女とかいないし。今まで出来た事ないの、カズキだって知ってるでしょ?」


 俺がそう言うと、カズキが「はぁ?」と呆れた様な顔になる。


「いや、何言ってんのお前? だってさっきって」

「ああ、そうそう聞いてよ」


 俺は、カズキにさっきの話をする事にした。


「いやさ、いつの間にか俺に彼女が出来てて、その彼女が……なんていうの? 寝取られた? そんな感じにされてたんだよね」

「……え? お前何言ってんの?」

「いや、正直俺も良くわからないんだよ……」


 呆れた様な顔になるカズキだが、俺も自分で言っておいて何を言っているんだ、と思う。

 あれは本当驚いた。いきなり『お前の女、貰ったから』とか言われたけど、名前も知らないんだけど、あの子。延々と変な話されて、どうしていいかわからなかったな。『人違いです』とか言えば良かったのだろうか。


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