当事者―●●れた男の安堵―

「よう」


 冷め始めたポテトと氷がほとんど残っていない飲み物を口にしていると、声をかけられた。先程の事もあり一瞬びっくりするが、声の主を見てほっと一息吐く。


「ああ、カズキか」

「ああって何だよ、ああって」


 俺の言葉に不満そうな顔をするカズキ。


「あれ、今日随分早くない?」


 ふと、時間を思い出して聞いてみた。カズキは運動部に入っているので、ここに来るのは部活が終わってからでなければ来られない。普通ならもうちょっと遅いはず。


「ん? ちょっとな」

「なんか急いで来た?」


 良く見ると額に汗が浮いているし、まだ呼吸が整っていないようだ。走ってきたのだろうか。普段なら注文を取ってから来るのに、それもしていないし。


「う、うるさいなぁ、元はと言えば悟が……あ、いや、なんでもない」


 何か言おうとするが、すぐに言い淀んでしまうカズキ。何なんだろうか。

 少し呼吸を整えてから、カズキは自分の荷物を置いて注文を取りに行った。


「ほいよ」

「あれ、今日少なくない?」


 トレイの上にはジュースとポテトしか無い。普段ならハンバーガーにナゲットもあっていいはず。カズキは帰ってから自宅で夕飯も食べるのだが、本人曰く『部活後は腹が減る。運動してるから問題無い』とのこと。


「あー、今日運動してないんんっ! じゃなくってそう! 金欠! 金欠だから!」


 何か慌てた様子のカズキ。


「金欠? なら何か奢ろうか?」

「いや、いい!」

「いや、毎回無理に付き合わせてるから、これくらい」

「無理じゃない! 大丈夫!」


 カズキに気圧され、思わず「お、おう」と黙ってしまう。


「そ、そんな事より食おう! な? な!? ほらこれもやるから!」

「え、金欠からは貰えない……」

「いいから!」


 何か誤魔化すように、無理矢理ポテトを押し付けられる。


「じゃ、俺のも」

「おう……って、冷めてるじゃねーか!」


 カズキとは、こんな感じで飯を食う。こんな何気ないやり取りが、俺は好きだった。

 さっきあったことも、これなら忘れられる。そう思っていた、のだが。

 何故か、カズキはずっとそわそわと、落ち着かない様子だった。

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