当事者―手を出した男の回想―

 ファーストフード店を出ると、少し遅れて美香が付いてきて、横に並ぶ。


「ん? いいのか?」

「……大丈夫、です」


 わざとらしく聞いてみるが、美香は俯きつつ言う。あーあ。可哀想に、悟君。

 良い女、だと思う。身体の相性も、後見た目も。


――美香を見つけたのは、少し前。その時の俺はフリーであった。いや、寝取った女が一人いた。いい女だったが、まぁ男の方とちょっとしたトラブルになった。その辺りはのだが、性癖ってのはどうにもならない。

 厄介な性癖ではあるが、別に女に酷い事してるわけじゃないしな。単に男が居る女を取るのが興奮するってだけだ。暴力振るうわけではないし。小さい子とかには親切にしたりしてるぞ? 迷子の子をちゃんと目的地に連れて行ったり、したことがある。

 丁度このファーストフード店で、元同級生を見かけた。昔、一時期狙っていた女。確か、せ、関…‥関根? そんな名前の女。彼氏がいたが、イイ身体と見た目の女だった。中々ガードが厳しく、靡く事なくその内別の女を寝取って止めた事を思い出した。

 その関根が男と腕を組んで歩いていた。あの男、確か当時からの男だった、んじゃないか? イチイチ男の顔なんて覚えちゃいない。

 当時は諦めたが、今なら寝取れるんじゃないか? 俺はそう思って関根に狙いを定める事に。

 関根がこの店でバイトしていることを知り、機会をうかがっていた。店内には入らず、外から様子をうかがう。中に入って関根ターゲットに警戒されるのは避けたいし、イチイチ無駄に金を使いたくも無かったし。

 そんな事を続けていたある時だ。店の外を向くように設置されているカウンター席。そこに居た高校生のカップルを見かけるようになる。そのカップルの女が美香だ。

 美香の最初の印象は『地味』だった。眼鏡に染めてない髪、と普通なら興味を抱く事はないんだが、カップルとなると話は別。付き合いたてなのか、並んでいる姿が初々しく見ていて微笑ましい――欲しくなるくらいには。

 男は一切興味はわかない正直どうでもいいが、女――美香は何か目を引く存在だった。段々と、関根の方はどうでもよくなった。

 何回か見ていると、決まった曜日に来ているようであった。見ていたが特に何か話している様子は無かった。ただ並んで黙々と飯を食っている。それだけであった。多分その後一緒に帰ったりしているのだろう。その姿を見た事はないが、きっとそうだろう。

 良く見ていると男は結構な頻度で来店しているようだった。時折カウンターに姿が見えない時は、テーブル席で友達っぽい奴と駄弁ってる様子が見えた。

 ある時、美香が一人でいる事があった。何か用事でもあったのか男の姿は無く、食い終わると美香はさっさと店を出た。チャンスだと思ったね、俺は。

 店を出た所で、俺は声をかけた。まぁ本当、最初は声をかけるだけ。そこは慌てる事はしない。声をかけられた美香は驚いた様子を見せていたが、警戒している感じは無かった。男に慣れていないんだろう。

 そこから少しずつ、怪しくない素振りを見せながら警戒されない様に美香と接触していった。何回目だったかは忘れたが、ホテルまで連れ込むのはそう難しくは無かった。若干抵抗があったくらいか、って程だ。抵抗と言っても物理的な物ではなく、彼氏に悪いんじゃないか、っていう葛藤みたいなの?

 地味な感じであったが、脱がしてみるとイイ身体をしていた。そして処女。相性も良かった。

 恋人がいるのに、そいつが見た事ない姿を俺が見る。これが寝取る醍醐味ってやつかな。

 一度ヤッたら後、美香は罪悪感はあるような素振りを見せていたが、結局は俺を選んでいたようだった。呼び出すと断る事は無かったからな。他の女は彼氏を選ぶ事はあったが、美香は必ず応じていた。

 何度かヤッた頃、俺は言ったんだわ。「俺の女になれ」って。そうしたら美香は少し考える素振りを見せつつ、頷いた。

 それで、筋を通す為に彼氏の悟君に今日会った、というわけだ。


「じゃ、憂いは無くなって今日から晴れてカップル成立ってことで」


 そう言って美香の肩に手を回す。小さく「あっ」と美香が声を上げるが、拒む素振りは無い。


「今日、このままホテル言ってもいいか?」


 囁くように言うと、美香は耳まで赤くして頷いた。その仕草が可愛らしい。

 相性もいいし、見た目もいい。眼鏡を外すと美人なんて、漫画くらいだと思ってたけど、美香はそのタイプだった。

 悟君も惜しい事したなぁ、早くヤッとけばよかったのに。まぁ、暫く美香は手放す気はない。俺が大事にしてやるから安心しとけ。

 そんな事を想いつつ、美香を連れてホテルへと向かうのであった。

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