当事者―手を出した男の話―

「わりぃ。お前の女、貰ったから」


 ファーストフード店のテーブル席、向かい合った席に座った男子高校生――確かさとる君、とか言ったか? まぁそいつに言うと、唖然とした表情を浮かべていた。

 その顔が見たかったんだわ。いい顔してる。

 自分としても碌な野郎じゃないとは思うが、仕方ない。ヘキなんだから。

 俺――根岸ねぎし博隆ひろたかは人のモノに興奮する性癖持ちだ。寝取るっていうのか? そういうのが昔から好きだったわけだ。

 何でそんな性癖持ちになったのか、切欠とかはあんまりよく覚えていない。まぁ他の人の物が良く見えたとか、そんな些細な事だろう。我ながら厄介な癖を持ったものだ。まぁ人のを取る、というので流石に筋は通さないといけない。というわけで『彼女もらってごめんね』って挨拶を今日はしているわけだ。

 今回の哀れな犠牲者である悟君は何も言えない。悔しさを露わにする奴、怒り狂って暴力を振るってくる奴色々いるけど、彼は状況を飲み込めないってタイプのようだ。そんなんだから取られるんだよ、って煽りたい気持ちになるが、流石に可哀想か。


「なぁ、お前も何か言ってやれよ美香」


 ちらりと隣に居る悟君の彼女の美香みか――おっと今はか。まぁ美香に目を向ける。罪悪感か俯いているが、そもそも隣にいる時点でもう心も俺の物だろう。別に俺は隣に座れとは言っていない。勝手に美香が座ったんだから。

 何も言えずもじもじしている美香の肩に手を回し、そのまま胸まで手を伸ばして揉む。指に柔らかい感触。制服を着ていてわかりにくいが、高校生にしては大きく綺麗な胸をしている。そこは確認済みだ。


「ああ後ごめんな、美香の初めても食っちまったわ」


 そう言ってみたが、悟君は唖然とした表情のままである。あまり面白くないが、美香が「あ、あの……それは……」と耳を真っ赤にして恥らった様子で呟いた。それでも俺が胸を揉むのを止めようとはしない。されるがままだ。


「ダメだよ? 付き合ったからって油断してちゃ。美香、イイ身体してたぜ? まぁ次はちゃんと、手を出しておいた方がいいぞ?」


 気をよくして悟君にアドバイスを送ってやる。おいおい、ずっと呆けてるじゃねぇか。これじゃ次も同じ目に遭うぞ?

 暴れられてもいいように念を入れて人の多い店を選んだけど、これならそこいらでも大丈夫だったかな。客は全然だし、人なんて店員くらいだ。さっきから女の店員が清掃しつつちらちらこっちを見てるが、ありゃフリだな。こっちが気になって仕方ないんだろう。割といい女だけど彼氏とかいるのだろうか。少し気になる。


「――あの」

「あん?」


 悟君が漸く口を開いた。


「あの、言っている意味が、その、良くわからない、ん、ですけど……」


 ああ、やっぱり良く状況を理解できていないようだ。俺は大げさに溜息を吐いて、悟君に言ってやった。


「だからさぁ、言ってるじゃん。君の彼女の美香、もう君の彼女モノじゃないんだわ。わかる? もう俺が好きなんだって。もうヤったし――あ、言っておくけど無理矢理じゃなくって合意の上だからな? というか、キスすらしてなかったらしいじゃん? どんだけ清いお付き合いしてたのよ? そんなんだから取られるんだよ……あ、取られた、か」


 あーあ、我慢してたのに煽ってしまった。まぁ、ずっと呆けてる姿にイラってしたから仕方ない。俺我慢したよ? 悪いとは思ってたし。でも段々と何の反応もしてないから、悪いのは悟君だと思うわ。


「まぁ、もう今更何言っても遅いか。とにかく、美香はもう俺のモノだからさ。連絡とか、見かけても声かけたりとかしないでね」


 そう言って立ち上がる。続いて美香も立ち上がり、戸惑った様子で俺と悟君を交互に見た後に小さく言った。


「……ごめんなさい」


 そう言うと美香は俺の後を着いてきた。悟君は最後まで呆けてた。うーん、流石に状況飲み込めなさ過ぎるわ。ま、あれだけ言えばわかるでしょ。

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