第24話 紅蓮の風を探そう!

「痛ててて。みんな大丈夫か?」


「平気〜」


「大丈夫よ」


「問題ない」


 足元が崩壊したことで、僕らは下の階層まで落とされたが、クラリッサが機転を利かして風魔法を使用したため、あまり衝撃を受けずに着地できた。


「迂闊だったわ」


「いや、まさかあんな至近距離に連続して罠があるなんてな。今のは防ぎようがないさ。気にするな」


「それにしても、罠がどこにあるか分からないと、まともに動くことができないね〜」


「確かにどこにあるか正確に見抜くのは難しい。だけど、罠にかかりにくくなる方法はあるぞ。ここを見ろ」


 僕は地面にあるうっすらとした足跡を指さす。


「これは……魔物の足跡よね」


「そうだ。彼らの通った道なら、罠に引っかかることもないだろ」


 足跡の上を慎重に歩きながら、僕らは上へと戻る道を探し始める。今いる階層は上の階層よりも横幅は広く、20メートル近くある。


 ただ、所々にコケ以外の植物が生えているため、視界はあまり良くない。


 おまけに所々入り組んでいて、分かれ道も多い。これは脱出するのに苦労しそうだ。


 分かれ道などに来る度に、僕らは足元に目印を付けておく。こうすることで、一度来た道に戻って来てもすぐ分かるようになるからだ。


 そうこうしているうちに、僕らは魔物と会敵する。緑の色の皮膚に青い鶏冠とさか、更には鋭い刃のようなしっぽのあるトカゲだ。


 大きさは大体3メートルくらいある。


「グリーンリザードだな。口としっぽの刃には毒があるから気をつけるんだ」


「「「了解」!」〜」


 グリーンリザードは大きく口を開くと、口内から火球を吐き出す。


「ウインドアロー!」


 それをクラリッサが狙撃魔法で迎撃、火球は無事風の矢によって打ち消される。


 その隙にミアはグリーンリザードに近づき、ロングソードで下段から振り上げるようにして切りつける。


「キシャアアアア」


 グリーンリザードのしっぽとロングソードが交差するも、魔力の纏わせたミアのロングソードにかなうはずもなく、しっぽは刃ごと切断された。


 しかし、グリーンリザードは俊敏に身体を大きく横に傾けると、ミアのロングソードが自分の腹部に当たるのを防ぐ。


「すばしっこいわね!」


 ロングソードでさらに追撃が行われるも、グリーンリザードはそれをも躱す。そこで、ミアはスローイングナイフを投擲した。


 無事に頭部へヒットし、グリーンリザードは息絶えた。


「うっ」


 ミアは左肩を抑える。


「大丈夫〜?」


「ええ。少しだけしっぽにあるブレードが掠っただけよ」


「しっぽには毒があるんだよねぇ。見せて見せて〜」


 エマはミアの肩に解毒魔法と白魔法をかける。すぐさま毒は中和され、かすり傷も癒された。



 ◆❖◇◇❖◆



「やあああああああああぁぁぁ!!!」


 ミアのロングソードはまたも躱されるが、投擲したスローイングナイフが再びグリーンリザードの首筋に命中する。


 グリーンリザードはすばしっこいものの、体力はあまりなく、攻撃を躱したところに追撃すれば、割と楽に狩ることができた。


 僕らはグリーンリザードの青い鶏冠だけ抜きとる。軽くて持ち運びやすい上に、比較的高く売れるからだ。


 毒腺なども希少価値は高いが、保管が難しいので放置することにした。


「これで7体目ね。ここにはグリーンリザードしかいないのかしら」


「肉食の魔物しかいないなんてことは無いはず」


「そうだろうな。おそらく、たまたま僕らの歩いていた場所がグリーンリザードたちの縄張りと被ってただけさ」


「うんうん。グリーンリザード以外の足跡もさっきから見かけるしね〜。これとか」


 エマの指さしたそれはまるで靴の足跡みたいだ。


「いや、これはどう見ても魔物じゃなくて人間の足跡だな」


「えっ? それってどういう――」


 ガキン!


 ミアが言い終える前に、遠くから金属同士が打ち鳴らされる音や、誰かの叫び声が聞こえてきた。


「――!!! 声がするからそこまで行くぞ!!!」


 僕らは駆け足で音の発信地へと向かう。




 ◆❖◇◇❖◆



「うぉりゃあああああ!!!」


 ミスリル級冒険者パーティ、紅蓮の風のリーダーであるリオはグレータースケルトンと鍔迫り合いをしていた。


「おい! アンネ! 今だ!」


「了解です! ウインドアロー!」


 エルフで弓術士のアンネは、リオとの鍔迫り合いで身動きできなくなったグレータースケルトンに対して、風属性の矢を放つ。


 放たれた矢は無事にグレータースケルトンの胸部に吸い込まれ、活動の核となっている赤い宝玉を破壊した。


 アンデッド系モンスターの心臓ともいえる場所を壊されたグレータースケルトンはバラバラに砕け散る。


「よっしゃあ! でかしたぞアンネ」


「いえいえ。リオ様が動きを止めて下さったおかげです」


「まぁなんだ。お互い様ってことにしておこう。あとはこいつだけだな」


 リオは隣で戦っているサラとドミニク、それにキリングゾンビを見つめる。


 キリングゾンビは背丈が3メートル近くある大型のゾンビだ。腹部には合計で6本の腕があり、各々の腕には剣や斧、メイスなどが握られている。


「ドミニク、足元を凍らせな!」


「は、はいぃぃ! アイスショット!」


 猫人族であり、拳闘士であるサラの要請によって、魔法士であるドミニクは杖から氷の弾丸を射出する。


 氷の弾丸はキリングゾンビの足元を凍らせ、動きを一時的に封じた。


「やるじゃあないか!」


 サラはキリングゾンビに右手に嵌め込まれたガントレットで殴りつける。ガントレットによる打撃は腹部に命中し、ある程度の衝撃は与えられた。


 しかし――。


「?」


 サラは違和感を感じる。近くで見たキリングゾンビの目元が笑っているように見えたためだ。彼女が追撃しようとしたまさにその時――。


「うわああああああ!!!」


 ドミニクの悲鳴が周囲に轟く。


「ドミニク!!!?」


 サラが彼を見ると、なんとドミニクは複数体のゾンビに囲まれていた。


「なっ!? いつの間に!?」


 よく見ると、そのゾンビのおしりには糸が垂れている。


「やつはスパイダーゾンビ! 天井に潜んでやがったのか」


 キリングゾンビがサラの攻撃を大人しく引き受けたのも、彼らがドミニクを襲いやすくするため、注意を引きつける狙いがあったに違いない。


「今助けるよ!」


 サラはドミニクの元に向かおうとするも――。


 ジャラジャラ!


「なっ!?」


 彼女はキリングゾンビの持っていた鎖によってぐるぐる巻きにされてしまう。


「チィッ!」


 サラが拘束されても、キリングゾンビは攻撃してこなかった。ただひたすら、下卑た笑みを向けてくるだけだ。


 お前はそこで仲間が殺られるのを見ていろということなのだろう。


 そうこうしているうちに、スパイダーゾンビたちは大きな顎をギチギチさせながら、ドミニクに近づいていく。


「やめてくれぇ! 炎熱光鳥ファイアーバード!」


 ドミニクの魔法により、炎でできた鳥たちがスパイダーゾンビたちを襲う。


 だが、分厚い外殻に阻まれてしまい、ろくにダメージを与えられぬまま、鳥たちは霧散してしまった。


「うわあああ!!!」


「「ドミニク!!」」


 リオとアンネが加勢しようとするも、少し距離があるため間に合わない。


 スパイダーゾンビたちが鋭い腕を振り上げ、ドミニクの命を奪おうとした刹那――。


「身体強化魔法、視力強化魔法、魔法攻撃力魔法、物理防御力強化魔法、魔法防御力強化魔法付与!」

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