第23話 ダンジョンを歩こう!

「フォトンスラッシュ!」


 ミアがロングソードから光の刃を射出し、分厚い木製の扉を攻撃する。扉は多くの木片を散らしながら粉砕された。


「誰が最初に入るの〜?」


「ここはレディーファーストでミアかな」


「ちょっと! 今その言葉を使うのは都合が良すぎないかしら?」


「まぁ落ち着け。なにも考えがなくて言ってるわけじゃない。パーティで一番戦闘力のある人間が先頭の方が、なにかあっても対応しやすいだろ。それに、後ろから魔物が現れた場合、僕が最後尾にいる方が良い。エマやクラリッサは後衛だから、後ろからなにかが追ってきても対処が難しいだろうし」


「一理あるわね。了解したわ」


 結局ミアを切り込み隊長として、僕らは屋敷の内部に侵入する。街中と異なり、発光する水晶はないため、薄暗い。


 なのでランタンで灯りをつけながらだ。光魔法でも悪くはないが、ここは魔力を温存させることにした。これからどんな敵と相対するか分からんしな。


 屋敷のエントランスは大きなホールとなっており、人が住んでいた時代には非常に煌びやかな場所だったと思われる。


 しかし、今はところどころ茶色く薄汚れており、家具や瓦礫が散乱していた。


 僕らは屋敷内のあらゆる部屋――執務室や台所、トイレ、居間などを探索する。だが、これといった成果は得られない。


「くそっ。領主の屋敷なら、この街の情報が手に入るかと思ったんだが」


 僕は執務室の資料を漁りながら悪態をつく。だめだな。リオのポーチを見つけてから、少し頭が興奮している。落ち着かねば。


「う〜ん。やっぱりここ違和感あるよね〜」


 エマの声が聞こえたので隣にある寝室を見ると、なにやら3人の少女たちは寝室にあるベッドの下を覗いてなにかしている。


「どうしたんだ?」


「あ、レオン。なんかベッドの下にある床のタイルが周りよりも少し出っ張っているのだけれど、どうやら下へと続く隠し通路があるみたいなのよ」


「屋敷の構造的にも、ベッドの下にはなにかある可能性が高い」


「なんだって!?」


 慌ててベッドをどかし、タイルを剥がす。その下には確かに鋼鉄製の扉があった。両開きで、上下しないタイプのやつだ。


「これは、流石に私の攻撃だけじゃ壊せそうにないわね」


「見たところ鍵穴はなさそうだな。となると……」


 僕は寝室を見渡す。すると、机にある2冊の大きな本と、本棚にある2箇所の空きスペースが目に止まった。


 僕はそこに2冊の本を押し込む。数秒後、部屋全体が大きく軋んだ。


「な、なによこれ!?」


 軋み続けながらも、やがてベッドの下にあった扉はゆっくりと開閉する。扉の先には、細くて狭い下り坂の通路が続いている。


「避難用の出口かしら?」


「行けばわかるさ」


 僕らは通路に入り込み、人1人がやっと入れる幅しかない道をひたすら歩きだす。


 通路はところどころ曲がりくねったりしたものの、基本的には下へ下へと続いているようだ。


 30分程度歩き続けるも、未だに通路の終わりは見えてこない。


「ここまで下り坂が続くとなると、避難用の出口じゃないのかも」


「そうだね〜。もしかしたら、街の維持に必要な何らかの施設とかがあるのかもしれない」


「私もそう思うわ。あの街、上下水道なんかもしっかりしたし、なにより魔水晶が至る所で点滅していたもの。街の維持に必要なエネルギーを作る施設があるのかもしれないわね」


「ほう。希少な魔水晶を知ってるのか。研究者の間ですら、知名度は低いものなのに」


 魔水晶というのは古代文明で使用されていた魔道具のひとつで、魔力を込めることで発光させることができる。


 現在では作ることはできないため、いわゆるロストテクノロジーってやつだな。


 遺跡などでは割とよく見かけるが、別の場所に持ち出そうとすると、ただの水晶となってしまい、発光させることはできなくなる。


 だから人の住んでいる街中で見かけることはまずない。


「私は実家で見たことがあるのよ。もちろん、発光していないものだけれど。父がこの手のアイテム収集が趣味なのよ」


「ほほう。ミアの父上とは話しが合いそうだな」


「そう言えば、あなたもその手の物が好きだったわね……」


「教室に変な像が置いてあったし」


「いや、変な像ではないぞ。あれは古代文明で崇拝されていた英雄のひとりでな――」


 雑談をしつつ、更に歩き続けていくこと20分。僕らはこれまでとは違った別の通路にでた。


 先程の無機質な石床の通路とは異なり、通路の壁や床には金色に光るコケが生えている。幅も5メートルはあるだろう。


 そして、所々に、まるでミミズのような管が通っており、どくどくと脈打っていた。


「もしかしてここはダンジョン?」


 ダンジョン。それは巨大な生命体である。魔力の流れる龍脈の近くで肥大化し、体内には様々な生命体が息づいている。


 何故ダンジョンが体内に生命体を侍らせるのかは分かっていない。


「うん。これはどう見てもダンジョンだな。なるほど、この街は龍脈から魔力を補充することで成り立っているのか」


 龍脈というのは、魔力が地中でマグマのように流れている場所のことだ。


「必要な資源もダンジョンからある程度調達できるし、理にかなっているわね」


「でも、紅蓮の風のメンバーたちはこんなところに来たのかなぁ〜」


「分からないが、一応調べてみるか」


 僕らはダンジョンの中を歩き続ける。街中よりもダンジョンの方が明るいので探索はしやすい。


 ヒカリゴケという、発光するコケがびっしりと生えているからだ。


 やがて一本道だった通路はなくなり、突如と道が二手に別れる。僕らは右に進むことを選んだ。すると、僕の足元でカチリと、何やら嫌な音がした。


 慌てて僕はジャンプしてその場から離れる。次の瞬間、僕のいた所に矢が刺さった。


「危なかった。どうやら至る所に罠があるみたいだな」


「全く、気をつけなさいよ!」


 ミアがそう呟いた刹那、彼女の足元から同じようにカチリと嫌な音が聞こえた。


「えっ?」


 すると、地響きが起き、僕らの足元は崩落した。

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