第22話 遺跡に入ろう!

「うん。私は遠見の魔法を使ってるから」


「そういうことか。どんな建物なんだ? ペレ砂漠に遺跡があるなんて話は聞いたことがないぞ」


「細かいことは分からない。建物の大半は砂に埋まってるから。頂上? の部分はピラミッドみたいで、入り口もある」


「今日中に辿り着けそうな距離なのかしら?」


「多分、日が暮れる前には。先生の補助魔法があるから間に合うはず」


「なら向かうか」



 ◆❖◇◇❖◆



 クラリッサの案内の元、僕たちは砂漠の真ん中にある建物へと辿り着く。建物は白い岩石に覆われたピラミッドで、高さは10メートル程度のものだった。


 奥行きもあまりないが、入り口には地下へと続く階段がある。


「この階段はどれだけ奥深くまで続いてるのかしら。じめじめしてるし、不気味ね」


 僕は階段に向けて石を投げる。暫くしても、底に落ちた音は聞こえなかった。


「こいつは相当な深さだろうな。どうする? 僕は紅蓮の風のメンバーが心配だし、遺跡の中に入りたい。だけど、君たちは彼らと面識がないからな。取り敢えずペレ砂漠に異変があったことを見つけただけでも成果だ。ここで撤退するのもありだと思う。もちろん、パーティで活動してる以上、僕だけが勝手に遺跡の内部に入っていったりはしないぞ。君たちはどうしたい?」


「そんなの決まってるじゃない」


「もちろん私たちは行くよ〜」


「以前先生は私たちを助けてくれたから、今度は私たちが返す番」


「そうか。みんなすまない」


「なーにがすまないよ。そこはありがとうでしょ」


「そうだな。ありがとう。じゃあ行こうか」


 乗っていたラクダを、近くにあった岩に繋ぎ止めた。帰ってくるのが遅くなっても良いよう、彼らの足元には餌や水を置いておく。


 繋ぎ止めた縄も解けやすくなっているので、長期間帰って来れなくてもラクダたちが餓死したりすることはないはずだ。


 僕らはピラミッドの内部へと足を踏み入れる。中は地中にあるためかじめじめしていた。


 もしかしたら近くに地下水が流れていたりするのかもしれない。階段はかなり深くまで続いているが、脇道などはない。最下層に着くまで30分ほどかかった。


「な、なによここ……」


 僕たちは思わず目の前の光景に目を奪われる。階段の先は巨大なドーム状になっており、その空間の中には様々な種類の建物が並んでいる。


 風化していて骨組みだけになっているものも多いが、至る所にある水晶によって青く照らされており、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「ペレ砂漠って昔は人が住んでいたんだね〜」


「知らなかった」


 ふと、僕は近くにあった壁画へと目を向ける。そこには、多種多様な魔物の絵と共に不可思議な文字が刻まれていた。


「これは古代ルーン文字だな。ということは、この遺跡はおそらく今よりも1000年以上前に作られたものだろう。そりゃあ、こんな砂漠の真ん中に町があったことなんてみんな知らないわけだ」


「1000年……。それって王国が誕生するより300年くらい前のことじゃない」


「そうだな。現代には存在しないロストテクノロジーによって作られた都市だ。注意して進もう」


 僕らは階段から移動して街の中へと進んでいく。階段と街の間には川が流れており、その上にはアーチ状の石橋がかかっていた。


「この石橋、薄汚れてはいるけれど、白っぽいわ。多分花崗岩よね。今よりもはるか昔なのに、頑丈な岩を橋にするなんて凄いわ」


「当時は今よりも世界が魔力に満ちていたとはいえ、確かに驚異的だなっおわっ!」


「キャア!」


 僕はなにかを踏んづけたために、盛大に転倒する。


「痛ててて……」


「あんたねぇ……」


 起き上がろうとすると、ミアの顔が近くにある。どうやら転んだ時に彼女も道連れにしてしまったようだ。


 ちょうど僕がミアに馬乗りしているような状態だ。


「わ、悪い」


 僕は慌てて立ち上がる。


「レオン先生はこれを踏んで転んだみたいだよ〜。なんだろう?」


 エマが拾ったのは、小型のポーチだった。茶色い獣の皮で作られたもののようで、中には回復ポーションや薬品などが入っている。


 中を物色していると、なにやら紙切れが入っているのに気づく。


「これは、冒険者ギルドで使われる依頼の受領書だ。署名は……」


 僕は目を大きく見開く。


「紅蓮の風のパーティリーダー、リオだと!?」


「なら、彼らはここに来ていたのね」


「ああ。今もいるかは分からないが、他にも痕跡があるかもしれない。探そう」


 僕らは街の入口付近に到達する。途端に僕らはある異変に気づいた。


「腐臭がする」


「アンデッドがいる可能性が高いな」


「グアアア」


 歩いてから10メートル程度進んだだけで、彼らは現れた。腐った死体と骨格だけになった人間、禍々しい瘴気を放った犬などの魔物だ。


「ゾンビにスケルトン、それにヘルハウンドまでいるのか」


 僕は改めて補助魔法をパーティ全体に付与する。ゾンビはエマによって浄化され、スケルトンはミアによって切り伏せられた。


 ヘルハウンドはクラリッサのファイアーアローによって消し炭となる。


「アンデッド系の魔物は私でも倒せるから任せて〜」


 ゾンビを浄化したことによってエマは上機嫌になる。


 その後も僕らはちょくちょくアンデッド系の魔物と戦闘するが、思ったほど強い個体はいなかったため、あっさりと撃破していった。


 街の住宅街や商店街だったらしき場所を通り抜けていく。中央にそびえ立つ豪勢な建物の前に辿り着く。


「なによこれ、気味が悪いわ」


 建物は幾つもの尖塔が取り付けられているゴシック様式の屋敷だった。しかし、庭には大きな祭壇のようなものがあり、それは2つに割れている。


 祭壇の下は大きく穴があいており、そこには銀色の液体が詰まっていた。何者かが、穴から這い出てきたらしく、地面にも、液体がこびりついている。


「遺跡の専門家なら、なにか分かりそうだが……。とりあえず、屋敷の方に入るか。この町の地図なんかがあるかもしれない」


 だが、中に入ろうとするも、当然のごとく鍵がかかっていた。


「このお屋敷、他の建物と違ってあまり壊れていないね〜」


「よっぽど良質な素材で建築したんでしょうね。どうやって侵入する気?」


「ふむ。なんやかんやで扉の部分が一番脆そうだな。ここは素直に破壊しよう」

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