第20話 オークを滅ぼそう!

「聖水の質が落ちている? エマ、君はそれが分かるのか?」


「うん。私の実家は代々白魔法士を排出してたから、その関係で聖水を見たことがあるんだけど、前見た聖水はもっと魔力の質が高かったよ〜」


「なるほどな。でも一体どうして」


「あなたたちはここに来る道中でオークたちに襲われませんでしたか?」


「襲われたな。それも結構な頻度で。いつの間に繁殖していたのやら」


「ここの聖水の量と質が落ちているのは彼らのせいです。正確には、彼らの親玉によってですけれど」


「彼らの親玉?」


「ええ、この森にはオークキングがいるのです」


「オークキングだって!? だがそいつとこの泉になんの関係があるというんだ」


「そのオークキングは変異種でして……。なんと通常の魔物より効率的に、取り込んだものに含まれる魔力を吸収し、体内に溜め込めるようなのです。そこで、オークキングは泉の聖水を毎晩のように飲み干し、このような有様になってしまいました……」


「なら、このままだと質の高い聖水が採れないじゃない」


「申し訳ございません」


 泉の精霊は頭を下げる。


「別にあなたのせいじゃないのだし、謝ることはないわ」


「そうだな。で、そいつは今どこにいる?」


「おそらくは森の南東にある集落に……」


「この精霊の泉はちょうど森の中央にあるんだよねぇ?」


「そう。どうやって攻略しようか」


「攻略!? まさか、オークキングを倒すと言うのですか!? この人数で!!!」


「まぁ、なんとかなるだろ。ミアたちもそこそこ強いしな」


 唖然とする泉の精霊を他所に、僕らは森の南東に進んでいく。オークの集落は小高い丘の上にあった。


 木々は切り倒され、木造の粗末な掘っ建て小屋が何軒も連なっている。


「結構多いね〜」


「うん。40、いや50体はいそう」


「そうだな。これだけの群れを形成してるとは思ってなかった。上位種がいる以上、ある程度大きな群れだとは考えていたが」


「精霊が言っていたオークキングってあいつのことかしら?」


 ミアが指さした方――集落の中央に目を向けると、そこには3メートルを優に超える大柄のオークが鎮座していた。


 丸太のような大きい長槍を両腕で抱えている。


「よし。まずは周りの一掃からだな」


 僕らは道中で立案した奇襲を仕掛けることにした。まずはクラリッサが集落を見渡せる高い木に登る。


 集落自体が小高い丘の上にあるため、全体を見渡せることはできないが、丘の片側を攻撃するだけで充分だ。


 クラリッサはエマから魔力の供給を受けつつ、大規模魔法の準備を行う。僕ももちろん、補助魔法によって支援する。数十秒後、クラリッサの魔法は放たれた。


超大火炎矢グランドファイアーアロー!!!」


 オークの住処へ向けて大量の、炎でできた矢が降り注ぐ。集落の上はまるで真昼であるかのように明るい。


 矢は雨のごとく、集落に襲いかかった。爆ぜた炎により、多くのオークたちは丸焦げになり、草木で作られた粗末な小屋も燃え盛る。


「これだけで、殆どのオークを倒せたんじゃないかしら」


「そうだな。こりゃ予想以上に凄い」


 しかし、現実はそこまで甘くなかった。丘の反対側から無傷なオークたちが現れたからだ。


 おまけに、オークキングも所々皮膚の表面を火傷しているものの、ピンピンしている。


 さすがは変異種なだけある。なにか魔法でも使って防いだのだろうか。


 ちょうど建物や矢の嵐によってオークキングの姿が隠れてしまっていたため、今いる場所からはよく見えなかった。


 まぁ、戦えば分かることか。


「ミア、付いてこい!」


「分かったわ!」


 僕とミアは潜んでいた草陰から飛びだしてオークの集落に向かう。新手のオークたちが向かってくるも、全て一撃でなぎ倒していく。


 遠距離から魔法でクラリッサとエマが援護してくれたのもあり、ものの5分と経たないうちに、全てのオークを切り伏せる。


「ブモオオオオオオオオ!!!」


 これにブチ切れたのがオークキングだった。見ると、やつの右足からは蒸気がでていて、徐々に火傷の後を修復していた。


 なるほど。やけに大人しいと思ったら、足を痛めていたから動けなかったのか。それを回復魔法で治したと。


 オークキングは、こちらに駆け寄りながら、土魔法で生成した石のつぶてを放ってくる。


 まるで散弾のように飛び散ってくるため、回避しにくいから厄介だ。


土塁障壁アースウォール!」


 だが、ミアが魔法で土の壁を形成し、全て弾く。オークキングは勢いを保ったまま突進してくると、長槍で僕らをなぎ払おうとする。


 ミアの生成した土の障壁は呆気なく長槍の柄によって破壊され、槍先が僕を真っ二つに切り裂かんと襲い来る。

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