第18話 謝ろう!

「エマ、しっかりして! お願い!」


 3人の少女たちは、空き地の中央にある大樹を背にして、オークたちと切り結んでいたようだ。


 赤毛をセミロングした少女が、悲痛な顔を浮かべながら、倒れている別の少女に声をかけている。


 よく見ると、倒れている少女の下腹部からは血が流れている。早く出血しないと不味そうだ。


「が、ガヒュッ、ご、ごめんね〜。さっきの攻撃貰っちゃった」


「そんなことは良いわ! 止血をしないと!」


 赤毛の少女は包帯を取りだす。しかし――。


「ごめん、ミア。そろそろ戦闘に戻って来て」


 先ほどから弓でオークたちを牽制していた、水色の髪をした少女が声をかける。


「くっ。分かったわ。エマ、少し待ってて」


 赤毛の少女はロングソードでオークたちに応戦し始める。だが、彼らは数が多い。始末されるのも時間の問題だろう。


「ふぅ。僕がなんとかするしかないな。視力強化、身体能力向上、魔法攻撃力向上、物理防御力、魔法防御力向上付与!」


 僕は自分と少女たちに補助魔法を付与していく。補助魔法に慣れていない状況でステータスを強化してしまうと、本来の戦い方ができなくなってしまう可能性がある。


 だから少女たちにまで魔法を付与するか迷った。しかし、彼らは疲弊している。なので付与することにした。


「な、何かしら!? 急に力が湧いてきたわ!」


 ミアと呼ばれていた少女はオークと鍔迫り合いを続けていたが、オークを後ろにノックバックさせる。そして、ロングソードで切りつけた。


 それだけで、オークはまるでバターのように真っ二つに両断される。


火炎矢ファイアーアロー!」


 弓兵の少女が、魔法の矢を放つ。オークに当たると、まるで彼らは油を被っていたのでは無いかと疑うほど、勢いよく燃える。


「嘘……」


 放った当人も思わず唖然としていた。


「はああ!」


 僕も彼女らに加勢するため、オークへとショートソードで切りつける。刃の長さが短いせいで絶命させることはできない。


 しかし、僅かな魔力をショートソードに纏わせるだけで、オークの腕なら切断することができる。なので、少女たちの元へと、オークたちを掻き分けて進むことができた。


「大丈夫か?」


「これはあなたの力なのかしら?」


「そうだ。僕は補助魔法士だからね」


「助太刀感謝するわ! 残りのオークをお願いできるかしら? 私はエマの止血をしないといけないの」


「だったらこれを」


 僕は回復ポーションを渡してやる。


「ありがとう。この恩は忘れないわ」


 ミアは倒れ伏している少女の元に駆け寄っていった。それを見届けると、僕は弓兵の少女と一緒にオークを倒していく。


 群れの半分ほどを倒したところで、彼らは勝てないと判断したのか、逃げ出していった。


「うぅ……。あれ、私……」


「エマ! 起きたのね!」


「良かった……」


 どうやら倒れていた少女は無事に息を吹き返したようだ。彼女は立ち上がろうとするも、ふらふらしている。


「ちょっと! まだ立ち上がっちゃだめよ! ポーションで回復したとはいえ、あれだけ出血していたのだから安静にしていないと!」


「でもぉ〜。私もオークと戦わないと」


「オークなら追い払ったわよ」


「えっ? 嘘……」


「嘘じゃない。そこの人が加勢してくれたおかげでなんとかなった」


「そこの人ぉ?」


「そ、そうよ! この人から回復ポーションを貰ったおかげで、エマの治療もできたのだわ」


「あ、ありがとうございます」


「いやいや、良いんだ。それより、自己紹介がまだだったな。僕の名前はレオン・マーシャス。サンタリア学園で補助魔法学を教えている」


 僕が名乗ると、少女たちも自分たちの名前を口にする。やはりみんな学園の生徒たちだったか。


「で、君たちはなんでこんな場所に居たんだ?」


「それは――」


「待って。全部私が悪いのよ。私が森の中にある精霊の泉を見に行こうと2人を誘ったの。だからお願い! 罰するのは私だけにして欲しいの」


 ミアは僕に土下座する。そうか。彼女は公爵家の人間だから罰せられたとしても退学にはなりにくい。


 逆に、下級貴族と自由市の議員の娘でしかない2人は退学になる可能性が高い。それを防ぐために、ミアは2人をかばう気なのだろう。


「ミアだけが悪いわけじゃない。賛同した私も同罪」


「そうだよ〜。ミアだけが罰せられるなんて納得がいかない」


「ちょっと!? 別に私だけなら退学にはならないのだから良いじゃない! あなたたちは引っ込んでなさいよ!」


「それはできない」


「私も〜。元はと言えば、私の母が原因なんだし」


 うーん。なにやら言い合いが始まってしまったな。これはどうしたものか。


「そう言えば、さっき精霊の泉に行くとかいう話をしていたな。大方聖水狙いなんだろうけど、何か事情があるのか?」

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