第17話 野宿しよう!

「それは一体どういうことなのかしら?」


 ミアが目を細めてこちらを見つめる。


「ああ、砂小恐竜サンドサウルスはな、ペレ砂漠の奥地にしか生息していないんだ」


「ペレ砂漠の奥地って、ラクダで3日くらい掛かる所だよねぇ〜」


「そうだ。この辺りは瘴気も濃くてな、一部の魔物にとっては居心地の良い場所になってる。ペレ砂漠は基本的に低ランク冒険者向けとされてるが、奥地に関しては中級者以上の冒険者が利用する場所になってるんだ」


「普段は奥地にいるはずの魔物が、どうしてこんな所にいるのかしら」


「それに関しては、僕も全く分からない。ペレ砂漠には何度も足を運んでいるけど、こんなことは生まれて初めて経験したよ」


「だけど、普段は奥地にいる、凶悪な魔物がペレ砂漠外縁部に出没し始めたと仮定すると、新人冒険者たちが行方不明になってる理由は説明がつく」


「クラリッサの言う通りだな。ペレ砂漠奥地に生息してる魔物がこんなところにまで移動せざるを得ないほどの異変が起きている可能性がある」


「なら、行ってみるしかないね〜」


「そうだな。手がかりが見つかった以上、行くしかない。とりあえず、今日は遅いから寝よう」


 僕たちは魔物が近づいてきても分かるように、あらゆる対策を講じる。僕とクラリッサは2人でちょっとした罠を仕掛ける。


 仕掛けと言っても簡素で、地面のあちらこちらにピンと張った透明な糸を張り巡らせておくだけだ。


 糸には鈴が付いており、魔物が糸に触れると、鈴が鳴って魔物が近づいてきたことを知らせるようになっている。


 僕とクラリッサが糸の罠を設置している間、ミアは土魔法でテントの周りに堀を作り、エマは一晩だけ効果のある結界を生成した。


「そうね。テントに入りましょ」


「いや、僕はあっちで寝るよ」


 僕は近くにある崖を指さす。そこには、大人1人が雨風を凌げるサイズの窪みがある。さっき枯れ木を集めている最中に実は見つけていたのだ。


「レオンだけあんな粗末な場所で寝るなんておかしいわ」


「そう言われてもな。僕と君たちが同じテントで寝るわけにはいかないだろ」


 本当はテントを2つ持っていきたかったが、荷物になるので断念した。負傷した冒険者を見つけた場合、余分な物を運んでいる余裕はないからな。


「私たちは別に気にしないわよ」


「そうだよ〜。レオン先生のこと信じてるし」


「私も。先生が変なことするはずがない」


「なんでそんなことが言えるんだ。あまり異性は信用するものじゃないぞ」


「いいから! こっちに来なさい!」


 ミアに引きずられ、テントの中に引き込まれる。


「いてて、わかったよ。僕もテントで寝ることにする」


 こうなってしまっては、もうどうしようもない。狭いテントの中に寝袋を並べ、全員で横になる。


「ぐっ。思ってた以上に狭いわね」


「だから言っただろ。君たちはなんで無条件に僕を信用してるんだ?」


「そ、それは……」


「それはもちろん、昔助けてくれたからだよ〜」


「助けたって、ああ、あのときのことか」


 僕はミアたちと初めて出会った日のことを回想しながら、目をつぶった。


 ◆❖◇◇❖◆



 日がすっかり沈み、冷たい空気に包まれながらも、僕はサンタリア学園内の敷地内で巡回を行っていた。学園内には森林が内包されているほど多く、たまに魔物や盗賊なども紛れ込んでくる。


 だから定期的に見廻る必要があった。夜行性の魔物や、闇夜に紛れて悪事を働く強盗も多いため、暗い時間は特に注意する必要がある。


「ハアハア、指先が痛いな」


 森の中にて、僕はカンテラを地面に置き、指に息を吹きかける。毛皮のコートを羽織っているし、体温上昇魔法によって身体を温かくはしている。


 だが、血流量の少ない指先はどうしてもかじかんでしまう。手でカンテラを持っているから、というのもあるが。


 突然、ガサリ、となにやら茂みから音が聞こえたため、僕はショートソードを手に持ってあたりを警戒する。


 現れたのは数体のオークだった。


「チッ。普段はゴブリンくらいしか見かけないってのに、今夜はついてない」


 僕は複数の強化魔法を自身に付与する。


「ぶひぃ!」


 群れのリーダーらしき個体の鳴き声を起点として、彼らは動きだした。


 声を発したオークは正面からバトルアックスを、残りの2体は左右から長槍を突き出してくる。


 しかし、僕は上空に飛び上がってそれらを全てかわし、オークリーダーの頭部にショートソードを突き刺す。


 オークリーダーが倒れると、残った2体が長槍を突き出してくるが、僕はそれを左右の手で掴み、押しとどめる。


 数秒後、僕は長槍をパッと放した。無理やり僕に長槍を突き刺そうと力を入れていたオークたちはバランスを崩し、前のめりになる。


 その間に、僕はショートソードで彼らの首元を撫でるように切り裂いた。


「ふぅ。こんなものかな」


 僕は乱れた呼吸を安定させる。そんな時だった。


「キャーーーー!!!!」


 森中に響き渡る悲鳴が聞こえてきたのは。


「何事だ!?」


 僕は息つくまもなく、慌てて悲鳴の聞こえる方角に向かう。


 草木の鬱蒼うっそうと茂った、道なき道を進んでいくと、木々の生えていない空き地にでる。そこでは3人の少女たちがオークの群れに囲まれていた。

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