第11話 逃げよう
クラリッサの放った矢は真っ直ぐコボルトキングに向かっていく。
しかし、コボルトキングは右腕で戦斧を振り回すと矢を弾いてしまった。クラリッサは続けて第3射、第4射を放つも、同じように弾かれてしまう。
「さすがに矢が来ることが分かっていれば、弾くのも難しくないか」
もう一度コボルトキングに近づいて攻撃するしかないな。僕は再びコボルトキングに向かって走り出した。
今度は下段から戦斧が僕を八つ裂きにしようと襲ってくるも、目で追えないほど速くはない。僕は風魔法を体に纏わせながら素早くそれをかわした。
僕は補助魔法以外の魔法はだいたい2流か3流である。正確には魔法の威力がだが。このように工夫すれば、威力の低い魔法でも戦闘で使うことができる。
僕はコボルトキングの足元に赴くと、右足の健へショートソードをお見舞いした。
「ガルルルルルアアアアアアアアア!!!」
自分に身体強化魔法を重ねがけしたおかげか、コボルトキングの腱は無事切断され、彼は前のめりになって倒れ込む。
僕はコボルトキングの背中に乗ると、その首筋に何度もショートソードを突き刺す。初めのうちはもがき苦しんでいたが、7回ほど突き刺すと全く動かなくなった。
「おっしゃあ! コボルトを殺し尽くしたぜ!」
ミアも沢山いたコボルトとその上位種を倒しきったらしい。彼女の足元には無惨な姿となったコボルトたちの亡骸が転がっている。
こうしてコボルトとの戦いは幕を閉じるのだった。
◆❖◇◇❖◆
コボルトキングとの戦闘から3日後、僕は村長の家に向かっていた。
あれから僕たちは、コボルトの巣穴を探し当てて破壊した。再び繁殖して村が襲われないようにするためだ。
破壊といっても、巣穴の入り口に火を焚いた後、入り口付近天井を崩壊させて使えないようにしただけだ。
入り口以外にも脱出口はあったため、生き残りのコボルトたちには逃げられてしまった。
しかし、あれだけ派手に破壊した上、上位種も居ない以上、そう簡単に群れの体制を立て直すことはできないと思う。
閑話休題。僕は村長の家のドアをノックする。
「入って良いぞ」という声が聞こえたので僕はドアを開ける。
「いやぁ、本当に世話になったのぅ。ほれ、これが報酬じゃ」
僕は村長から茶色い布袋を受け取る。中には今回の報酬である金貨2枚が入っていた。
「こちらこそ。またなにかあれば依頼してくれ」
「もちろんじゃ」
村長と硬い握手を交わした後、僕は村長の家をでる。
「遅かったじゃない」
外にでると、ミアたちに出迎えられる。
「今回の報酬を受け取ってたのさ」
「金貨2枚貰えたのなら、それで美味しいものでも食べに行こうよ〜」
「悪くないな」
雲ひとつない晴れ渡った青空の下、僕らは冒険者ギルドに向けて帰還するのだった。
◆❖◇◇❖◆
「はぁ、はぁ、ここまで逃げれば大丈夫だろう」
サンタリア魔法学園の校長であるラスターは学園から遠く離れた地方都市の街中に潜んでいた。
もちろん、学園の資金を横領した罪でランバルド公爵家から追われる身となってしまったからである。
「にしても、あの小娘、余計なことをしおって」
ラスターはミアに犯罪の証拠を突きつけられたことを思い出し、思わずイライラし出す。
「どうしてあの冴えない無能教師をクビにしただけでこの私が学園を追われる目に会わなきゃならんのだ! レオンめ、あやつを見つけたらただじゃ置かんぞ!」
ラスターは公爵家の娘に復讐する実力も、胆力も持ち合わせていない小物だった。なので、怒りの矛先は自分より下だと思っているレオンに向きはじめる。
「まぁ、今はそんなことよりもこれからどうするかを考えねばならんな。腹も減ったし、まずは飯にしよう」
ラスターは近くにあった手頃な酒場へと入っていく。
店内は窓が少なく薄暗いものの、モノトーンな壁や調度品とうまく調和しており、しゃれた雰囲気を醸し出している。
客もラスター以外に5人程が各々カウンターやテーブルの周りに座っている。
ラスターは逃避行をする中で誰ともろくに会話しなかったため、孤独感を味わっていた。なのでマスターと会話のできるカウンター席のひとつへ座り込む。
「ふむ。悪くはないな。マスター、なんでも良いから軽くつまめるものをくれたまえ。あとはエールも」
「はいよ。ちょっと待ちな」
5分も経たないうちに、熱々のソーセージや蒸かした芋、少し固めの黒パン、エールなんかが運ばれてきた。
節約のため、まともなものを食べていないラスターはそれらを貪るように食べ始める。
「お客さん、そんなにがっつかなくても誰かに取られたりはしませんよ」
「おおこれはすまん、しばらく飯にありつけなかったからな」
「へぇ。あなたのような高貴そうなお方でも満足に食べられないようなことがあるのですね」
「この私が高貴……。よく分かっているじゃあないか」
ラスターは一応、軍事魔法学校であるサンタリア魔法学園の校長をしていただけあって、貴族の爵位を持っていた。
まぁ、子爵の爵位なのであまり大したことはないが。
しかし、貴族として常に偉ぶってきたラスターにとって、酒場のマスターからの意外な褒めに頬を緩ませる。
「いやぁ、なんと言いますか、旦那からはそんな雰囲気がするんですよねぇ。おまけに着ているそのコート、お高いんでしょうなぁ。私のような平民では手が届かなそうです」
「ははは! そりゃそうだろうな。なにせこのコートはノーブルシープの毛を熟練の職人に紡がせた毛織物だからねぇ」
「ノーブルシープって、山脈に棲む希少な羊の魔物ですよね。そんなのこの田舎じゃ見たこともないですよ。やっぱり王都から来たんですかい?」
「うむ。向こうではとある学園のトップとして働いていたのだよ」
「そいつは凄い。きっと学園の資金をたんまり横領したんでしょうな」
「その通りだ……。って君は今なんと言ったのかね!?」
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