第12話 呼び出されよう!

「えっ? 聞こえなかったんですかい? きっと学園の資金をたんまりと横領して儲けてきたんだろうなと言ったんですよ」


「な、なぜ貴様がそれを!?」


 ラスターは思わず椅子から立ち上がった。


「はぁ。さすがに演技をする必要はもうねぇか。おっと、逃げないで下さいよラスターさん」


 酒場のマスターが指パッチンをしたのを合図にして、酒場に居た5人の客がラスターの周りを取り囲む。


 彼らは全員剣や槍、杖などで武装していた。


「私たちはランバルド公爵家の刺客なのですよ。ああ、安心してください。別にあなたを殺したりはしませんよ。今回はラスター元校長、あなたを捕らえてくるように仰せつかっただけですので」


「クッ! こんなところで捕まってたまるか! ウォーターバレット!」


 ラスターは右手を武装した男たちに向けて魔法を発動しようとする。通常、魔法は杖などの魔力増幅装置を使わなければ威力が半減してしまう。


 ミアの場合、魔力増幅装置はロングソードであり、クラリッサは弓である。しかし、エマのように、稀に魔力増幅装置を使わなくても高威力な魔法を使える人間もいる。


 ラスターもその1人だ。類まれなる才能に恵まれていたからこそ、彼はサンタリア魔法学園の校長になれたといえる。


 ラスターの右手から高速で回転する水球が勢いよく飛びだす。水球はローブによって身を包んでいる男に当たろうとした。


魔法反転マジック・インバージョン


 男も魔法を発動する。すると、彼の周りに黄金色の膜が現れた。


 水球はその膜にぶつかると、反転してラスターに襲いかかる!


「うわぁ!」


 当然の出来事に対応できず、ラスターは情けのない声をあげることしかできなかった。水球は彼の左肩に着弾する。


「ああああああ! いだい痛い!」


 ラスターはあまりの激痛にうずくまり、左肩を右手で抑える。


 酒場のマスターに扮していた男はそんなラスターを右足で蹴り飛ばす。ラスターは酒場の壁に思いっきり打ち付けられた。


 追い打ちをかけるようにして、マスターはラスターに馬乗りになると、両手で何度も殴りつける。


 酒場中に顔面の骨が折れる音が鳴り響く。マスターはラスターの耳元でささやく。


「言ったでしょう。我々は刺客であると。魔法士との戦いには慣れているのですよ。こちらとしても手荒な真似はなるべくしたくないので、大人しくついてきてくれませんかねぇ。間違って殺したら任務失敗ですし」


「ふぁ、ふぁかったから。もう止へてくれ」



 ◆❖◇◇❖◆



「うっまあー! ワイバーンの焼肉なんて久しぶりに食べたわ!」


「うん、脂がのっててジューシー」


「私はロースの部分よりもミノが好きかな〜」


「ミノって胃の部分よね……。というか、牛やミノタウロスの胃を指す言葉じゃなかったかしら?」


「そんなことはないぞ。あまり知られていないが、ワイバーンの胃袋は形状が牛と似ているからな。同じようにミノと呼ばれているんだ」


「へ、へぇ〜。よくそんなこと知ってるわね!」


「冒険者時代にワイバーンは散々狩っていたからな。そりゃあ知ってるさ」


 僕たち雷光の追放者は冒険者ギルドの酒場で豪勢にも、ワイバーンの焼肉を食べている。


 ワイバーンは高価なため、金があっても中々食べられる代物じゃないのだが、今夜は初の依頼達成記念だから奮発した。


「ぷはぁ。プレミアムエールもうめぇや」


 飲み物もいつも飲んでいる安いエールではなく、ワンランク上のものだ。


「私もやっぱりエール飲もうかしら?」


 ミアたちは酒ではなく、果実酒を飲んでいる。一応王国の法律では飲酒年齢は決まっていない。


 寧ろ、子供向けの飲み物であったとしても、消毒のために低濃度のアルコールが含まれているくらいだ。


 しかし、若いうちから酒を飲む人間は少ない。


 アルコールはとある魔物の体液から採取できる。だが、その体液にはアルコールと共に有害な物質も含まれているからだ。


 有害な物質は20を過ぎるまで人体で分解するのが困難であるため、若いうちから飲酒をすると身体がぼろぼろになってしまうのだ。


 そうなるとまともな冒険者生活はできなくなる。


「止めた方がいいと思うよ〜。私の母はアル中になって早死しちゃったし」


 エマが真剣な眼差しでミアを見つめた。いつもの独特な口調も途中で消えている。


「そうね。やっぱりやめておくわ」


「すいません! 雷光の追放者の皆さん、ギルド長の元まで来て頂けないでしょうか?」


 僕らは声のした方に振り向く。そこには銀髪をなびかせた受付嬢がたっていた。


「あなたはコボルト討伐の依頼を受けた時の」


 確かにクラリッサの言った通り、彼女は冒険者登録や最初の依頼でお世話になった狼人族のマリーさんだった。

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