第9話 戦おう!

「あんたは確かあの時の……」


 村人たちの先頭に立っていたのは、村の入口にある物見櫓に立っていた茶髪の男だった。


「すまない、申し遅れた。俺の名前はフレディ。この村の警備隊隊長をしている」


 フレディが右手を差し出して来たので、僕は彼と握手をする。


「僕も冒険者証を見せただけだったな。名前はレオンだ。一応オリハルコン級冒険者をしている」


 オリハルコンの6文字を聴いた途端、村人たちはざわめく。


「オリハルコン級冒険者だって!?」


「最上位の冒険者じゃねぇか!」


「そんな凄いやつがどうしてこんな村に!?」


「おい、お前ら落ち着け!」


 仕方なく、僕は先ほどフレディにしたのと同じ説明を繰り返しつつ、冒険者証を見せる。。村人たちが落ち着くと、僕は尋ねる。


「それで、君たちはなんの用でここに来たんだ?」


「ああ、あんたらはコボルトを討伐しに来たんだろ? なら俺たちも参戦するぜ。奴らには何度も煮え湯を飲まされできたからな」


 なるほど。彼らは目の前で村を荒らされて悔しい思いをしてきたのだし、コボルトに対して復讐したがるのももっともだ。


「了解。君たちが協力してくれるのなら、確実にコボルトを殲滅できそうだよ」



 ◆❖◇◇❖◆



 日がすっかり沈み込み、暗闇が地上を支配しだした頃、コボルトたちはいつも通りに村に侵入するため、地下深くから村に侵入しようとしていた。


 上位種のコボルトメイジが魔法によりあらかじめ村の真下まで穴をほっているため、村に侵入するのはかなり容易になっている。


「ガルルルルル!!!!!」


「キャウン!」


「ガゥガゥ」


 コボルトたちは上位種の鳴き声を合図に、地上に進出していく。


「キャウ!?」


 地上にのぼったコボルトたちは周囲が焚き火によって明るく照らされていたため、思わず目をしかめた。


 だがこんなものなんになると直ぐに開き直る。確かに透明化の魔法は明るい場所だと姿を視認しやすくなってしまう。


 しかし、人間の視力などたかがしれている。そのように考えた刹那――。


「視力強化付与!」


 レオンが魔法を発する声が村中に響き渡るのだった。



 ◆❖◇◇❖◆



「視力強化付与!」


 僕はミアたちやフレディたち村人に視力強化魔法を付与する。当然自分にもだ。


 すると、透明で姿が殆ど見えなかったコボルトたちの輪郭りんかくがうっすらと見えるようになった。


 まるでクラゲのように、コボルトたちはその半透明な姿をこちらに見せつけている。


「くらいなさい!」


 初めに、ミアがロングソードでコボルトたちに斬りかかった。


 コボルトたちは自分たちの透明化が意味をなさなくなっていることに気づくのが遅れ、3体のコボルトが袈裟けさ斬りにされる。


「身体能力向上、魔法攻撃力向上、物理防御力向上、魔法防御力向上付与!」


 僕は複数の付与魔法を発動する。付与するのはミアたちにだけだ。さすがに大人数に視認強化魔法を付与したせいで、残りの魔力が心許ないからな。


「フォトンスラッシュ!」


 ミアのロングソードを振るうと、刃から白い光線がほとばしる。光線に触れた10体のコボルトたちは身体が2つに切断され、命を落とした。


 一度に多くの仲間を失ったコボルトたちは思わず後ずさる。


 しかし、未だに事態を飲み込めていない後続のコボルトたちがどんどん地上に上がってくるため、彼らには地下に撤退するという選択肢はない。


 コボルトたちはミアの居るのとは真逆の方向に逃げようとする。しかし――。


「おおっと、逃げられると思うなよ。おめぇらのせいで俺たちがどれだけ苦しめられたと思ってんだ」


 反対方向にはフレディたち村人が潜んでいた。


「キャワン!」


「ガウガウ」


「ギャン!」


 今まで奔走してきた村人には勝てると思ったのか、多くのコボルトたちがフレディたちに殺到し、戦闘が始まる。


 しかし、コボルトを視認できるようになった村人たちはコボルトに対して互角以上の戦いを行う。


「うぉりゃあ!」


 初めに、フレディのバスターソードが上段から振るわれる。先頭を走っていたコボルトは粗末な棍棒で受け止めようとするも――。


「ギャウン!」


 バスターソードは棍棒を真っ二つにすると、そのままコボルトを一刀両断にした。


「たぁ!」


「てりゃ!」


 他の村人たちも、おのおの槍や剣で応戦している。彼らの武術は拙い。だが、姿さえ見えていれば子供でも倒せるコボルトは村人たちの敵ではない。


 ある者は槍で刺殺され、またある者は剣で腹を切り裂かれていった。ミアもコボルトたちを追いかけては次々とほふっていく。


「この調子なら無事コボルトを殲滅できるなあとは群れのボスが現れて欲しいんだが」


 そのように呟いた刹那――。


「ギャワアアアアア!!!」


 けたたましい怒声が周囲に響き渡った。

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