第8話 調査しよう!
「村長、村にある穴は殆どがコボルトの仕業によるものか?」
「農業を営んでおる村なので、当然モグラが掘ったものもある。しかしそうじゃの、半分以上はコボルトが村に侵入するために掘ったものじゃ」
やはりか。僕は一応元オリハルコン級冒険者だ。だから、魔物の基礎知識はしっかり頭に入れている。なのでコボルトが穴を掘るという習性も知っていた。
それにも関わらず、村中に掘られている穴がコボルトによるものだと気づかなかったのにはわけがある。
コボルトは基本的にそこまで強くなく、おまけに大した魔法も、掘削技術もない。
だからコボルトが村の外から村の中までを移動できる穴を1晩で掘るのは不可能に近い。
それにも関わらず、村にはたくさんの穴が存在する上、穴は綺麗な円形をしたものが多かった。
まるで土魔法を使って掘ったのではないかと思えるほどに。
というか穴は確実に魔法で掘られたものだろう。つまり――。
「何者かがコボルトを統率してる可能があるな。例えばコボルトの上位種、コボルトメイジとか」
「なんと!? コボルトが透明になるのは上位種の仕業だったというわけか」
「そうとしか思えないな」
「となると、依頼料も引き上げねばのぉ」
今の依頼料は金貨1枚だけだ。確かに、上位種がいるなら安すぎるな。
「金貨3枚でどうだ?」
「ううむ。コボルトにだいぶ冬の備蓄を持っていかれたからの。金貨1枚と大銀貨5枚で受けてくれないかのぉ」
「こっちも危険を承知で依頼を受けてるんだ。懐事情が悪いのも分かるが、もう少し増やしてもらわないと困る。金貨2枚なら受けよう」
「……承知した。よろしく頼むのじゃ」
契約が成立し、僕と村長はあつく手を握るのだった。
◆❖◇◇❖◆
「で、姿の見えないコボルトをどうやって討伐するの?」
クラリッサに尋ねられる。
「まずは村全体の調査をして、それからどうするのか決めよう」
僕たちは手分けして村人にコボルトがどのように襲ってきたのか具体的な聞き込みをしたり、穴を覗き込んで奥がどのような構造になっているのか調べ始めた。
「色々と聞いてきたけど、村長から聞けた話以上のものはなかったよ〜」
「話も」
休耕地に掘られている穴を覗き込んでいると、村人たちから聞き込みをしてきたエマとクラリッサが戻って来た。
何も成果が得られなかったことに2人は落胆している。
「特に情報が得られなかったとしても気落ちする必要はないぞ。成果なしなんて、冒険者をやっていれば良くある事だよ。酷い時には魔物を倒した後、他の魔物や冒険者に横取りされるなんてこともざらだしな」
「そうなんだ〜。ありがとう、少し気が楽になったかも」
「うん。やっぱり先生は優しい」
2人を慰めていると、ミアも帰って来た。
「レオン、コボルトたちが透明になる件だけれど、彼らと戦った村人たちから興味深い話を聞けたわ! コボルトは完全に透明になる訳ではなくて、明るい所に居ると、うっすらと透けて見えるらしいわ!」
何人かの村人たちはコボルトを討伐したことがあるらしい。
彼らの話では、焚き火の灯りに照らされて、コボルトはまるでガラスのように透けて見えたそうだ。
彼らが夜闇に紛れて侵入してくるのも、完全に透明化できないのを誤魔化すためなのかもしれないな。
にしても、村長からはそんな話は聞かなかったぞ。まぁ、上司と部下との間で情報共有がなされていないなんて良くある事だし仕方がないか。
もしかしたらあの村長ももう随分と歳だから、報告を受けてはいたけど忘れていた可能性もあるな。どっちが真実でも割とどうでも良いか。
「でかしたぞミア。明るく照らせば視認できるなら、戦術の幅が広がるからな」
「なら良かったわ。ところでレオンはずっと穴を調べていたけれど、分かったことはあるのかしら」
「ああ。コボルトたちはどうやら、北側の方から穴を掘って村に侵入することが多いみたいだな。おそらくそちらの方角に奴らの巣があるはずだ」
「毎回同じ方向から来たらそのうちバレそうなものなのだけれど」
「古い穴は多方面から侵入した形式があるが、比較的最近掘られた穴は全部北側から侵入した形式があるんだ。まぁ、村人たちに穴がどちらの方向に伸びているのか調べる術はないし、それが分かったところで、村を留守にしてコボルトを討伐しに行く余裕もなさそうだしな。コボルトたちもそれが分かっているから慢心しているんだろう」
「なるほど、巣があるのなら、そっちに行ってコボルトたちを一網打尽にすべきよね!」
「うーん。コボルトは上位種でも猫よりふた周り大きい位のサイズだから、巣穴は狭くてとてもじゃないが人間は入れないぞ。どうやって戦うつもりなんだ?」
「うっ。そう言われるとなにも思いつかないわね……」
「巣穴の前で火を焚くのはどうかなぁ?」
「アイデアとしては悪くない。ただ、コボルトの上位種は知能が高いからな。もしも巣穴の入口を複数作っていたら、そこから逃げだす可能性がある」
「ならどうするつもりなのぉ?」
エマの質問に答えようとしたその時――。
「お〜い! 冒険者さん方、少し話があるんだが」
体格の良い村人たちが声をかけて来たのだった。
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