第6話 移動手段を手に入れよう!

 ミアとクラリッサの誤解をなんとか解き、僕たちは冒険者ギルドに向かう。


 未だにミアがぶすっとしているのはなぜなのだろうか。異性の気持ちはよく分からないな。


 早朝の冒険者ギルドは多くの冒険者たちで賑わっていた。


 クエストの更新は朝早く行われる上、日が暮れてから魔物を狩るよりも昼間に狩った方が簡単だからだ。


 ボードに貼りだされた依頼を眺める。薬草採取からワイバーンの捕獲まで、多種多様な種類の依頼が無造作に貼り付けられている。


「よし、これにしよう」


 僕が選んだのは村の周辺に住み着いたコボルトの群れを討伐して欲しいというものだった。畑を荒らされたり、小さな子供をさらっていたりしているらしい。


「私たちの実力ならそんなの簡単にこなせるじゃない。もっと高難度のにしたいわ」


「気持ちは分かるが、まずは簡単なクエストでパーティ感の連携に慣れた方がいい。個人の力が強いからと慢心して、危機的な状況で足を引っ張りあってしまうなんて事はよくあるからな。僕の同期も殆どそういった理由で死んでしまったから、気をつけるべきだと思う」


「ご、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないのよ」


 ミアはシュンとした表情を浮かべる。


「気にしなくていい。死んでしまった彼らだって、自分の仕事のリスクを把握した上で一攫千金を狙っていたわけだしな。ところで、受ける依頼はコボルトの討伐で良いか? 別に他の魔物でも、そんなに凶悪な魔物でなければ問題ないが」


「良いよ〜」


「同じく」


「私もレオンに従うわ」


 決まりだな。僕たちは受付嬢のところに行く。


「依頼の受注でしょうか?」


 銀髪のロングヘアをなびかせた受付嬢が声をかけてくる。おそらく彼女は狼の獣人なのだろう。頭の上に耳が生えている。


「はい、マリーさん。コボルトを討伐してこようと思いまして」


 彼女は昨日、ミアたちを冒険者登録する時にお世話になったので名前を知っていた。


「レオンさんはオリハルコン冒険者ですよね? ギルドとしてはもっと上の依頼を受けて欲しいのですが……。新人が受けるような依頼ばかりしていると、レオンさんの評判も落ちかねませんし」


「ギルドの意向も理解できるし、マリーさんの懸念も最もだな。だけど、後ろの彼女たちはそこそこ強いものの、新人だしお互いに連携して戦う事に慣れていないと思うんだ。なので大目に見て欲しい」


「分かりました。レオンさんがそのように仰られるなら、私からはなにも言えません」


 貴族と同等の特権階級であるオリハルコン級冒険者に文句は言えないというわけか。こういう時にオリハルコン級冒険者だと融通が聞くので助かる。


「ついでにパーティ名を決めたからそれの報告と、冒険者プレートにパーティ名を刻んでくれ」


「承知しました」


 僕たちのパーティ名、雷光の追放者をギルドに登録し、冒険者プレートにパーティ名を刻んでもらう。これで僕たちも立派な冒険者だといえる。


 昔の僕みたく、1匹狼の冒険者はパーティに所属していないが、やっぱり集団で行動した方が色々と便利だ。


 例えば冒険者同士でトラブルが起きたとき、仲間がいた方が相手を牽制けんせいしやすい。


「できましたよー」


 マリーさんに冒険者プレートを手渡される。銀色のプレートには、自分の名前とパーティ名が金色の文字で刻み込まれていた。


 自分の冒険者プレートにパーティ名が刻まれているなんて、以来なので少し感慨深い。


「ありがとう」


 そう言うと、僕たちは早速、依頼を受けに村へと向かうのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


「みんな馬には乗れるよな?」


「もちろんよ」


「大丈夫」


「問題ないよ〜」


「なら、日が暮れる前にさっさと行くか」


 冒険者ギルドの横に併設された馬小屋の中に入っていく。ここは冒険者ギルドが運営している馬小屋で、冒険者たちに格安で馬を貸してくれる場所だ。


 冒険者ギルドのある今の町からコボルトに悩まされている村までは距離があるので、馬を借りることにしたのだ。


「いらっしゃいませ。どの馬をご利用になられますかって……ええ!? もしかしてレオンさん!?」


 カウボーイを被った若い男が口を開け、驚いた様子で出迎えてくれる。


「ああ、久しぶりだなネイ。昔はあんなに小さかったのに随分と大きくなったもんだ」


「そ、そりゃあ最後に会ったのは俺っちが13歳のときですし、大きくなってますよ! というかレオンさん、いつの間にか冒険者として復帰してたんですか!?」


「昨日戻って来たばかりだよ。そんなことより馬を貸してくれ」


「ちぇっ。連れないなぁ。まあいいや、今度ご飯でも食べに行きましょう。ところで彼女たちは?」


「ああ、僕は先日まで教師をしていたからね。彼女たちはそこの生徒だったんだよ。色々あって学園を辞めることになったから、冒険者として働くことになったんだ」


「申し遅れましたわね。私の名前はミアですわ」


「私はクラリッサ」


「エマだよ〜」


「あ、これはご丁寧にどうも。俺っちはネイと言います。それにしてもあの堅物だったレオンさんが女の子とパーティを組むなんてねぇ〜」


 ネイはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべてこっちを見てくる。


「おいおい。僕と彼女たちは元教師と元生徒ってなだけで別にそんな仲じゃないぞ」


「ふ〜ん。まぁそういうことにしておきましょうか」


 結局、誤解は解けなかったようで、ネイはずっとニヤニヤしたままだ。


「それで? なんの馬にします? やっぱり昔見たくスレイプニルですか?」


 スレイプニルというのは、足が8本生えている馬の魔物である。


 通常の馬よりも速く走ることができるものの、希少な種である上に繁殖力も低いため、料金は高めだ。


「いや、今回は肩慣らしにコボルトを討伐しに行くだけだから、スレイプニルだと割に合わん。普通馬を貸してくれ」


「へーい。1人銀貨3枚になります」


「う〜ん。大した荷物もないのに1人1頭ずつ馬を借りるのも勿体ないな。2人で1頭ずつ借りよう」


「それなら、2人ずつ乗ってもつぶれないよう、少し大きめの馬を貸しますぜ」


「助かる」


 ネイが連れてきたのは一般的な馬よりも少し大柄な黒い馬だった。確か大黒馬みたいな名前の品種だった気がする。


「さて、それじゃあ2人ずつ乗って行くぞ。グッパーで分かれるか」


 グッパーというのはじゃんけんの変種といえば分かるだろうか。


 じゃんけんていうのは、その昔、異世界から召喚された勇者がこの世界に広めた、勝敗を決める遊戯ゆうぎのことだ。


「ん? みんなどうした?」


 グッパーでふた手に分かれようといった刹那、ミアたちの雰囲気が豹変ひょうへんした。何故か彼女たちはお互いを鋭く睨みつけて牽制しあっている。


「なんでもないわよ」


「うん。先生には関係ないこと」


「これは女の戦いだからね〜」


「そうか……」


 あまりつっこまない方が良さそうだな。


「それじゃあいくぞ。せーのっ! グッパー!」


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