第5話 パーティ名を決めよう!

 僕たちは白い外壁の宿屋に入っていく。床には赤いカーペットが敷かれており、天井にはシャンデリアのロウソクがロビーを照らしていた。


 夕飯時なため、厨房からはなにやら美味しそうな匂いが漂ってくる。


 この宿屋は冒険者でいえば、金級以上が利用するような、少し高級な宿屋だ。名を純白亭という。


 ミアたちは全員上流階級出身なのであまり貧相な所に泊まる訳にもいかないだろうと思い、この宿を選んだ。


「4名様でお泊まりでしょうか?」


 受付嬢に尋ねられる。


「そうだ」


「身分証のご提示をお願いします」


 安宿と違い、ここでは素性の分からない人間は泊まることができない。


 僕は冒険者プレートを提示する。


「……! これは失礼しました。ただちにお部屋にご案内いたしますので、少々お待ちください」


 プレートにあるオリハルコン級の文字を見た受付嬢はそそくさと動いて僕たちを部屋に案内する。


 冒険者プレートは引退する時に一度返却した訳だが、キルドで復帰する旨を伝えたらまた貰えた。まぁ、正確には冒険者を引退したというより、活動を休止していただけだからな。


 一応籍は残っていたのだ。


 そんなこんなで、僕たちは最上階にある、町を一望できる部屋に通された。天井には受付と同等サイズのシャンデリアが部屋内を明るく照らし、壁には高そうな絵画が飾られている。


 置かれている家具も立派なもので、椅子や机の枠には金の装飾が施され、ベッドには天蓋がついていた。


「綺麗だわ……」


「ベッドもふかふか〜」


「私の実家より断然良い部屋」


 三者三様に驚きの声をあげる。気に入ってくれたようで何より。ちなみに宿代は他の部屋と同じ値段で良いと言われた。


 オリハルコン級冒険者は貴族と同等の扱いを受けられるからな。いわゆる特権階級ってやつだ。


 ソファーでくつろいでいると、給仕が夕食を運んできた。ふかふかで焼きたてのパンに上質な肉のステーキ、アンチョビ入りのパスタなどが次々と運ばれてくる。


 しばらくの間、それらの豪勢な食事に手をつけながら魔法や学園での思い出話に花を咲かせていたが、やがてパーティ名はどうしようかという話になった。


 集団で行動するパーティには通常パーティ名がある。


 強力な魔物とは複数パーティで挑む時に互いのパーティ名を言いあったり、パーティが全滅して遺品を回収するさい、冒険者プレートに書き込まれたパーティ名を身元の照会に使ったりするのだ。


「実は私、既に考えてあるのよ!」


「言ってみてくれ」


「月光のちょうはどうかしら?」


「悪くはないが……。僕だけは花というよりだからなぁ」


「そんなに自分を卑下しなくても良いじゃない」


「別に卑下してるわけじゃないぞ。僕が自分を分析したときに蝶とは縁のない人間だと思ってるだけだよ。他に案はあるか?」


「はぁ〜い」


 エマが手を上げる。


「鮮血の赤バラなんてどうかなぁ?」


「私たちは別に血まみれじゃないのだけれど……」


「でもかっこいいと思うんだよねぇ〜」


「そうかしら……」


 ミアが少し不服そうだ。


「あの、いいかな」


 クラリッサがボソリとつぶやく。


「私は雷光の追放者というのを考えたんだけどどう? 雷光はパーティリーダーである先生の髪の色からとってて、追放者は文字通り学園から追放されたのが由来」


「えっ? パーティリーダーは僕なのか? てっきりミアがするものだと思ってたんだが」


「何言ってるのよ。オリハルコン級冒険者がパーティリーダーじゃないなんておかしいじゃない」


「一番階級の高い人間がパーティリーダーになるとは限らないぞ。リーダーに必要なのは純粋な強さよりも仲間をまとめあげる力だからな」


「ならやっぱりレオンが適任じゃない」


「そうか? まぁ僕がリーダーをやることに異存はないから良いけど」


「私もレオン先生がパーティリーダーをやることには賛成かな〜。パーティ名もそれで良いと思う」


「同じくクラリッサの案に賛成するわ!」


 こうして僕たちのパーティ名は決まったのだった。




 ◆❖◇◇❖◆


 翌朝。


「んん……」


 僕は自分の上になにか重いものが覆いかぶさっていることに気づき、目を覚ます。なんなのかは分からないが、とにかく覆いかぶさっているものが邪魔で仕方ない。


 寝ぼけながらも両手で持ち上げ、横にどかそうとする。


「んはぁ、ああん!」


 なまめかしい声がしたことによって僕は背筋に冷や汗が流れるのを感じた。寝ぼけていた意識も完全に覚醒する。


(嫌な予感がするな)


 恐る恐る目を開けると、目の前にいたのはエマだった。僕の両手は彼女の両肩を持ち上げている。


 危ない危ない。


「ん〜。あれ? 先生おはよう〜♪」


 エマが目を開けてこちらを見つめる。


「どうして僕のベッドに居るんだ?」


「なんでだろぉ。あ〜夜遅くにトイレに行った帰り、ベッドを間違えちゃったのかも〜」


「そうか。なら離れてくれ」


「ん〜。分かった〜」


 エマが僕から離れようとしたその時――。


「ふあ〜。ごきげんようレオン」


「先生おはよう」


 両隣のベッドからミアとクラリッサが起きてきたのだった。


「ちょっとレオン? これはいったいどういうことかしら?」


 こちらを睨みつけ、ミアはこぶしをゴキゴキと鳴らせる。


「最低」


 クラリッサは冷ややかな目線を僕にぶつけてくる。


「いや、違う! これは誤解だーーー!!!」

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