第4話 予備の武器を買おう! 

 武器屋の中へと入っていく。内部の棚や壁には古今東西の様々な武器が飾られている。


「へい、いらっしゃい!」


 背の低い、浅黒い肌をしたおっさんが快く出迎えてくれた。彼はおそらくドワーフなのだろう。小柄ながらも筋肉が発達しているのが衣服越しでも分かる。


「この2人のサブウェポンを買いに来た」


「それだったらこちらの棚にありますな」


 おっさんの後を着いていく。サブウェポンの棚はかなり奥の方にあった。メイン武器よりも売れにくいからだろう。


 もし僕が武器屋を営むことになったとしても、メイン武器を店の前に置いて、サブウェポンは目立たない位置に配置すると思う。


「基本的には普段お使いになっている武器に近い構造のものをお使いになるのがおすすめですぜ」


「それはそうだが、2人とも魔法職なんだ。だから魔力が切れても使えるものが良い」


「魔力が切れても使えるもので、なおかつ筋力の低い魔法職でも使えるものですかぁ」


「あ、私は腕っ節にもそこそこ自信がある。狙撃魔法士だから」


 クラリッサが背中に背負っている弓を指さす。そうか、狙撃魔法士は魔力の伝導率が高い特殊な弓で、魔法によって作成された矢を放つ魔法士だ。


 弓を引くのにも筋力がいるから、普段から鍛えているのだろう。


「それでしたら短剣なんてどうです? 魔力がなくなっても使える上に、シンプルで扱いやすいから人気ですぜ」


 そう言うと、棚から銀色に光り輝く短剣を取りだす。


「こちらはミスリル製でしてね。中に魔力を溜めておけますぜ」


 ミスリルというのは希少で魔力を流すことのできる金属だ。流し込んだ魔力はミスリル内にある程度貯めることができる。


 いざという時にミスリル内の魔力を放出させることで、自分が魔力切れを起こしていたとしても魔法が使えるので便利だ。


「でも値段が高いなら買えない」


「確かに値段はちと張りますな。これの価格は金貨1枚になりやす」


 金貨2枚か。一般市民の平均月収は大体金貨2枚程度だ。庶民の半月分の稼ぎだと考えれば、希少金属であるミスリルの高価さがよく分かるだろう。


「僕がだすから心配しなくて良いぞ」


「いや、それは先生に悪い」


「気にするなって。僕は独り身だし、趣味も魔法くらいしかないから、貯金だけはあるんだ」


「でも……」


「良いんだって。それにこれは投資でもあるんだから」


「投資?」


「ああ、装備を充実させればパーティ全体の戦力が強化されるだろ? そうすればより多くの報酬が手に入るようになって、今回出費した以上のお金が手に入るかもしれない。だからこれは投資なんだよ」


「分かった。私頑張るから、短剣を買ってください。お願いします」


 クラリッサは頭を下げる。


「お! 兄ちゃん男前だねぇ」


 ドワーフのおっさんが感心したような声音を発する。


 僕は後ろに突っ立っているエマの方に首を向けた。


「エマも好きなものを選ぶと良い」


「ありがとう」


 彼女はこちらに微笑むと、おっさんに話しかける。


「筋力がなくても扱えるものはあったりするぅ?」


「もちろんでさ。この魔道具はいかがです?」


 彼は黒い球形の物体を取りだす。


「これはぁ?」


「火球玉ってやつですぜ。中に炎属性の魔石や可燃性ガスや鉄の破片なんかが入っていて、魔力を流すと10秒後に爆発する仕掛けになってやす。敵に投げつければそれなりのダメージになるかと」


「それだと自分の近くに敵がいた時に使えない気がするんだが」


「それもそうですねぇ。近距離で使いたいならこっちはどうです?」


 彼が見せつけてきたのはかなり特殊な武器だった。


 何枚もの薄い桃色の金属板が丈夫なひもで結び付けられており、閉じると棍棒のように、開くと孔雀くじゃくの羽のように半円になる。


「これは東の国で使われている武器でしてね、名前を戦扇いくさおうぎと言いやす。素材はヒヒイロカネ製です」


 ヒヒイロカネというのは主に東国で採れる希少金属だ。金属としてはかなり軽量で、なおかつミスリル並に硬く、絶対に錆びない性質を持っている。


「この金属板の先は鋭く尖っていましてね、半円の状態だと敵を切りつけることができますし、閉じられた状態の場合、棍棒のように使用できやすぜ」


 エマは戦扇を手渡されると、それを閉じたり開いたりする。


「良いかも〜。私はこれにする〜」


「毎度あり!」


 僕はお金を払って彼女たちのサブウェポンを購入した。他にも小さなツボを買う。


「中には何が入ってるのかしら?」


「刃物や矢に使う毒だよ。これはミア、君にあげよう」


「え、良いの!?」


「ああ、ミアだけに何も買わないわけにはいかないと思ってな。投げナイフに塗っておくと良いだろう」


「ありがとう!」


「ただし、全部のナイフに毒を塗るんじゃないぞ。せいぜい半分くらいにしておけ」


「どうして?」


「生肉が高く売れる魔物に毒入りのナイフを投擲とうてきするわけにはいかないだろ」


「なるほど。理解したわ」


 店を後にすると、既に太陽は沈みかけており、空はあかね色に染まっていた。


 学園を出てしまった以上、学園寮は使えないため、僕たちは宿屋に向かうのだった。

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