第2章8話 ルノと謎のタイム・トラベル(後編)
私は、ルノ。今は、孤児院で一緒に遊んだリルちゃんと、この夢の中にいる私を探しています。なぜ、こうなったかと聞かれても、謎の夢のせいとしか言いようがないです。
私は、この夢が覚めるのは、夢の中の私に会うことで、解決すると思っています。だから、リルちゃんと一緒に私を探しています。
「リルさんって、そのルノお姉ちゃんって人と何を買いに、街に来たの?」
「ルノお姉ちゃんのお祝い事の、買い物に来ました」
「本人と来ている理由って、どうしてなの?別に、1人でも選べるよね?」
「私は、できるだけなら、ルノお姉ちゃんに喜んでもらいたくて。ルノお姉ちゃんの意見も聞こうかなって思ったの。私にはサプライズは出来ないし」
「なるほどね」
そんな感じの雑談をしていたら、段々と近づいて来る存在に、気がついた。こちらに、近づいて来ている。迷うことなく近づいているから、私ではないだろう。街にいるということは、おそらくひったくりだろう。そして、気配は私達のすぐ近くに来ていた。
「リルさん、近くに何かが来ている。危険な人かもしれない」
「ルーシェさん、それは本当ですか?なら、気をつけます」
そして、その人物は、私達の真後ろに来た。ナイフのようなもの持っていることが、背中の感触を通じて分かる。
「一旦動くな。金目のものを出せば、こいつは助けてやろう。変なことをしたら、こいつの命はない」
「……」
私は、すかさず、男の持っていたナイフを、蜘蛛の糸を使って刃の部分をぐるぐる巻きにした。男は、びっくりした様子を見せたものの、すぐに思考を切り替えて、もう1本のナイフを出した。
しかし、私はその男の手首を凍らせることに成功した。男は、バッグの中に手を突っ込んだまま、動けなくなった。このまま、反撃を続けようとしたら、誤算が起きた。
「おい。動くなと言っただろ!こいつがどうなってもいいのか?」
「……ルーシェさん……」
「……」
リルちゃんが捕らえられていた。敵は、複数いた。どうしようか悩んでいたら、男の後ろに、『味方』がいた。
「グエッ」ドサッ
「リルちゃん、大丈夫?」
「ルノお姉ちゃん、怖かったよぉー」
「あなたも大丈夫?」
「ありがとうございます。じゃあ、私はこれで」
「ちょっと待ってよ。あなた、過去の私でしょ?」
「えっ」
男の後ろにいたのは、『私』だった。その私は、ルーシェである私を知っていた。
「ルノお姉ちゃん、どういうこと?この人は、ルーシェさんだよ?」
「この人は、過去の私なのよ。ルーシェって言う人は、偽名を使っているの」
「そうよ。リルさん、騙したみたいでごめんね」
「事情はわかったから、いいよ」
「ありがとう。そういえば、過去の私って言っていたよね?これは、夢じゃないの?」
「夢でもあり、現実でもあるわね。最初の空間を出るまでは夢だけど、この街に来たら、現実なのよ」
「分かるような分からないような……。過去って言うけれど、私ってどれくらい過去の人なの?」
「こちらは、あなたの感覚で言うなら3年後の世界よ」
「3年たったら、私フォルケル国だったら成人じゃん」
「混乱する気持ちは、すごく分かるわ。私も3年前は、そうだったもの。でも、今となったら、現実味があるわね……」
「あと、リルちゃんと一緒に買い物に来たって言っていたけれど、何のお祝い事なの?私の誕生日とか?成人祝い?」
「……言った方が、いいのかしら?答える事ができない質問ね……」
「あのね、ルノお姉ちゃんは、大事な人と運命の赤い糸?ってやつを結ぶんだって。だから、その大事な人との縁が切れないように、刺繍いりのハンカチをあげるんだって」
「リル、余計な事は言わない」
「ええ〜?」
「……知られたからには言うけれど、相手は、今のあなたの想い人よ……」
「!」
私は、顔から全身が赤くなった。フォルケル国では言わない言い回しと、ティスサ国での婚約者になる人に送りものをする習慣を私が、受けるだけでも赤面ものなのに、相手は、今の想い人……ガロウさんの事らしい。未来の私が、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにしているということは、おそらくは未来の私も好きなのだろう。これは、確かに過去の私が聞いていい話ではない。でも、まだ他の楽しみが残っているので、それは後のために、取っておく。
そして、ティスサ国では、刺繍いりのハンカチを送ることは、ハンカチは肌身離さず持つことから、女性側が送ると意味は、『あなたのことは離さない』。男性側が送ると、『君は、いつでも美しい』。男性側の方は、ハンカチは美しいものを選びがちだから、女性側が送る時と、意味が違う。まあ、男性側の方は、いつまでも一緒にいても、飽きないどころか、好きになり続けている事を現しているけれど、他国に行くと、違う意味でとらえられてしまう。だから、他国の人は、ティスサ国のハンカチの送り方を真似する人は、あまりいない。
「……そろそろ、夢から覚めた方がいいわよ。矢印の反対側を通るの。早くしないと、目覚めないかもしれないわ」
怪訝そうな顔をしていた、未来の私が言った事は、恐ろしい事だった。
「早く帰ればいいの?」
「そうよ。早くしないと、身体が重くなってきて、最終的に動けなくなるの」
「わかったわ。ありがとう!」
「気をつけてね」
「ルーシェお姉ちゃん、ありがとう!」
私は、2人の声を背にしながら、急いで走った。そして、未来の私に言われた通りに矢印の反対を通った。そして、街の出入口まで着いた時、上を見た。そしたら、『ドキドキタイム・トラベルは楽しんでいただきましたか?楽しめたなら、よかったです!』と書いてあった。
そして、無事に目が覚める事ができた。私は、夢だったら覚えてなかったけれど、現実だったからか、はっきりと未来の事を覚えていた。何気なく時計を見たら、昼の11時だった。そして、未来の事を思ったら、私の頬が緩んだ。
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