第2章7話 ルノと謎のタイム・トラベル(前編)

 私は、その日はいつも通りの生活をしていた。何も変わらない、普段の生活。ずっとこのままでも飽きることなく、感謝できる日々。でもそれは、何の前触れもなく、突然やってきた。

 私が寝ていたら、不思議な空間にいた。それは、夢なのだとすぐに理解した。しかし、起きている時とさほど変わりない程に、意識ははっきりしていた。私は、視界に入った矢印の通りに、進んでいく。

 矢印の通りにしばらく進んでいると、街に着いた。私の今の活動拠点の、街の雰囲気に近い。私は、しばらく道なりに進んだ。ふと、上を見た。すると、『タイム・トラベルにようこそ!あなたは記念すべき千人目のお客様です!存分にお楽しみ下さい!』と、書いてあった。

「タイム・トラベル……?」

 私は、何の事か分からなかった。まぁ、夢だからいつか目覚めるだろう。そして、再び歩き出した。

 しばらく歩いていたら、わかったことがある。私達、宵闇怪盗団の活動拠点にしている街に、かなり似ている。お店の並びが一緒だし、お店の看板も一緒のところが多い。1部、私の記憶と一致していないけれど、まぁ大体はあっている。

 そして、私は『夢って、こんなに似ることあったっけ?』という思考が駆け巡る。不思議な夢だなと思いながらも、私は歩き続けた。

 しばらく歩いていた私の背中に、衝撃が走る。どうやら、後ろから誰かが勢いよく走ってきたようだった。私は、謝ろうと後ろを振り向いた。そうしたら、驚いた。

「ご、ごめんなさい!私が前を見ていなかったので、あなたにぶつかってしまいました」

 そう言った少女は、私が孤児院で遊んだリルちゃんにそっくりだった。ただ、身長は少し伸びていて、大人っぽい雰囲気になっていた。

「いえいえ、こちらこそ不注意でした。ごめんなさい」

「元々、私が走ったからですよ。私、ルノお姉ちゃんと買い物に来ていて、はぐれちゃって探そうとして走っていたら、あなたにぶつかってしまったし……。本当に、ごめんなさい」

「そうなの?じゃあ、ルノお姉ちゃんって人を一緒に探しましょう」

「本当ですか!ありがとうございます。私は、リルって言います。あなたは?」

「ええっと……」

 私は、困った。多分、同じ名前の人を区別する程の技量は彼女は持っていない。そして、彼女は私の予想通り、リルちゃんだった。まぁ、リルちゃんは、私のことが分かっていても、おかしくなさそうだった。それが、何故かまでは分からなかったけれど、私は偽名を使う事にした。

「……ルーシェです。よろしくね、リルさん」

「ルーシェさんね。わかったわ。ルーシェさん、早速だけれどルノお姉ちゃんは、灰色の髪に、水色の目、頭に大きなリボンをしていて、そのリボンで髪を1つにくくっているのよ。それらしい人は、どこかで見かけなかった?」

 私は、リルちゃんから特徴を聞いて、やっぱり私の事を探しているらしいと言うことがわかった。しかし、私はそれらしい人は見かけていない。

「その人は、見ていないよ。力になれなくてごめん。その人の行きそうなお店に行って見たら、どうかな?」

「分かった。ついてきて」

 私は、リルちゃんに連れられて、一緒に進む。私は、早くこの夢が覚めることを願いながら、リルちゃんと一緒に、私を探すことにした。

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