第2章5話 甘えた草の大量発生(sideガロウ)

 今年も、多降雨月の季節がやってきた。この時期だからこそ、取れる野草や、旬の野菜があると言うことを、ルノから教えてもらった。だから、生き生き草を探しに行った。生き生き草の旬がちょうど今ぐらいだそうだ。生き生き草とは、野草でとても美味しい。基本的に何にでも合う、万能野草だ。そうと決まれば早速、ルノ達に野草を取りに行くことを言う。

「野草を取りに行ってくる」

「野草、ですか?」

「そうだ。なんでも、生き生き草が大量発生する季節だからな。美味しい野草を取ってくる」

「分かりました。期待しておきます」

「おう。楽しみに待っていろよ」

 そして、近くの山で野草をとる。生き生き草がたくさん生えている。この山は、生き生き草の採取許可が出ている。鑑定で、見てから、カゴに入れている。いくつか取れて、持ち帰った。

 それから、ルノに調理してもらい、いざみんなで食べる時に事件が起こった。しばらくすると、ルノの様子がおかしい。

「ルノ、大丈夫か?」

「何か、体が熱いです。ちょっとフラフラもします」

「部屋で休むか?」

 つらそうなルノの様子を見たダラグが、ルノの皿を見たら、衝撃の事実が分かった。

「ルノ、だけ、違う」

「ダラグ、どういうことだ?」

「他の人、生き生き草。ルノ、だけ、甘えた草」

「えっ、でも鑑定したぞ?」

「ガロウ、念のために、もう1回確認しましょう。そうすると、分かるはずです」

「あ、ああ。そうだな」

 俺は、ルノの皿の野草を鑑定してみた。ついでに、他の人の皿の野草も鑑定した。そしたら、ルノの皿だけ甘えた草と出た。

「ガロウ、どうでした?」

「ルノの皿だけ、甘えた草だった……。すまん」

「月影様、甘えた草って、どのような症状が発生するのですか?」

「症状は、その名の通り甘えん坊になります。甘えたいのに甘えられない時に使う薬の材料でもありますね。しばらくすれば治ります。症状も軽い方ですね」

「分かりました」

「ガロウ、きちんと鑑定したのですか?」

「いや、いくつかまとめて鑑定だったから、1個1個は見てねぇ……」

「きちんと、見ろ」

「うぐっ」

「今回ばかりは、ガロウが悪いですねぇ」

「ぐっ」

「ガロウ様、次回からきちんとダラグ様の許可を得てから食卓に並べましょう」

「がはっ」

 俺へのダメージがどんどんささる。まぁ、しばらくしたら治るとはいえ、とんでもないことをしてしまったから、仕方がない。とりあえず、ルノを休ませようとしたら、さっきまでの位置にいたはずのルノが見当たらない。ルノがどこに行ったかと思ったら、俺の左腕に何かがくっついてきた。びっくりして、左腕を見たら、ルノだった。

「ガロウさ〜ん、どこに行くんですか〜?私も連れて行って下さいよ〜」

「口調も変わるのか……。どこにも行かねぇよ」

「ガロウさ〜ん、お姫様抱っこして〜」

「ハードル高ぇな。まぁ、分かった」

「やった〜」

 俺は、ルノをお姫様抱っこした。ちょっと恥ずかしい。

 フォルケル国は、転生者の国と呼ばれる程、転生者が多い。だから、別世界の文化が盛んに発展してしまった。そして、この国でメジャーな言葉は、他国に行くと全然通じない。フォルケル国では、他国に行かない人が多いが余計に、行かなくなる原因のひとつでもある。

 なぜこの話をしたかと言うと、ルノが使った『お姫様抱っこ』はこの国でしか使われない言葉だったからだ。そう考えると、ティスサ国よりも、フォルケル国の方に馴染めていると感じて、なんだか嬉しい。

 そして、そんなことを思いながら、ルノを降ろす時に、ふと周りを見たが、誰もいない。心の中で思ったことを言おう。『逃げやがった、あいつら!』と。

 そして、ルノはそれだけでは、満足しなかったようだった。降ろされたら、今度はとんでもないことを口走った。

「ガロウさ〜ん、私が疲れたら〜、さっきやった抱っこで〜、部屋まで運んで〜」

「はあ?!ルノ、よく考えろ。それを思い出した時、色々思うだろ?冷静になった時に辛いのは自分なんだぞ?」

「ん〜、じゃあ、ちょっと屈んで〜」

「お、おう。こうか?」

 俺は、ルノの指示に従って、屈んだ。

「目を閉じて〜」

「おう」

 よく分からないまま、ルノの言うことを聞いていく。すると……。

 ……俺の唇に、何か柔らかい何かが押し付けられて、呼吸がしにくくなっているけれど、ルノの香りが近くでする。もしかして……。

「もういいよ〜。ありがとう〜、ガロウさ〜ん」

「ルノ、さっき言ったこと忘れたのか?」

「ガロウさんなら〜、大丈夫〜」

「いや、俺は狼男だから、獣の本能みたいな所もあるから、余計ダメなんだが」

「私は〜、ガロウさんを信じるよ〜」

「……後で、後悔しても知らねえぞ。お姫様抱っこで部屋までだったよな」

「うん〜」

 ルノにそう言われると、弱いから自分に困ってしまう。さっきまでは、ルノが後悔しないようにしようと思っていたが、ルノが俺を信用すると言うなら、俺もルノを信用しよう。

 それからも、ルノの甘えは凄かった。アーンしてほしいとか、ひざまくらに乗ってほしいとか。俺の理性が壊れそうだったけど、ルノからの信頼を無くす所だったから、何とか保っている。大体、獣人や、狼男、猫又等は理性を保つこと自体が、すごく難しい。この時間は、幸せでもあり、苦痛でもあった。

 そして、ルノは満足したらしく、しばらくすると、「部屋まで運んで〜」と言っていた。もちろん部屋まで、お姫様抱っこで運んだ。部屋に着いたら、ノックをして、部屋の中にいる人に託す。

「リナ、ルノを頼んだ。多分、そろそろ効果が無くなっから」

「分かりました」

 そして、部屋を後にした。月影とダラグがいる、自分が寝る部屋まで、戻る。月影とダラグは、部屋でリラックスしていた。

「ガロウ、どうでした?ルノと何かありましたか?顔が嬉しそうですよ?置いて行ったかいがありましたか?」

「やっぱり、意図的に逃げやがったか。楽しかったけど、逃げんな」

「どんなことが、あったのですか?私に詳しく教えてくださいよ」

「断る。逃げたやつに教える義理はねぇ」

「そんなぁ」

「逃げた自分を恨め」

「じゃあ、次から逃げないで、ずっと見ていることにします。それならいいですよね?」

「やっぱ、ダメだ」

「なんでですか」

「何となく」

「酷いですね」

 月影とそんな軽口を叩きながら、今日は寝ることを決めたので、寝る準備をする。明日はルノが元に戻っているだろうが、今日のことは隠せないだろう。まぁ、仕方がないから、隠さない方針で行こう。そう考えているうちに、眠気がきたので、寝ることにした。

 翌日。ルノは少し嬉しそうに見えた。落ち込んでいないなら、なんでも大丈夫だったから、ホッとした。ルノが元気でいたら、俺まで元気になってきた。

 俺はとりあえず、今回学んだことがある。鑑定はしっかりしようと、今回の教訓にした。1個1個丁寧に鑑定することを心がけることにした。次回からないようにするためだ。その実績を積んだ俺が、1人で山菜を取りに行けるようになるのは、まだ先のお話。

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