第2章1話 ガロウとルノの町歩き

「ルノ、町に出よう」

「へっ?」

 ガロウさんにある日突然そう言われたから、びっくりした。

 私はルノ。元エカバリー公爵家の令嬢。今は、ただのルノ。エカバリー公爵家とは、少し前に1悶着あって、ようやく実家との縁が切れたから、私は平民になった。

 今、私に話しかけてきた人は、今の私の上司で私の好きな人、ガロウさんだ。ガロウさんは、宵闇怪盗団という怪盗団のメンバーで、その怪盗団の名前は、そこそこ有名だ。さっき言ったエカバリー公爵家との1悶着にも、参加してくれた。

 そして、話を戻すことにしよう。私は、ガロウさんに町に行こうと言われた。

「どうしてですか?」

「今、気がついたんだが、ルノ達って必要な物ほとんど実家に置いているだろ?だから、足りない物とか出ているんじゃないかってな。その話を月影とダラグとしていたんだよ。俺たちだけだと分からないから、俺がルノについて行くことにしたんだ」

「なるほど。でも、なぜリナじゃないんですか?」

「リナは、何か忙しいって本人が言っていた。まぁ、いいんじゃないか?」

「分かりました」

(ボソッ それに、誤解されたくないしな…)

「?何ですか?」

「いや、何でもねぇ」

「じゃあ、集合時間どうします?」

「とりあえず、明日の14時ぐらいでいいだろ」

「わかりました」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 翌日の14時。私達は、怪盗団の住処から出て、今は町に向かっている。最初に向かうところは、生活用品を取り扱っているところだ。

「着いたぞ」

「5分もたってないのに町に着くなんて、やっぱり近いですね」

「生活雑貨はこっちだな」

「そういえば、お金ってどうなっているんですか?」

「ん?金の成り立ちのことか?」

「いや、怪盗団ってどこからお金が入って来るのかな、と思いまして。怪盗団によっては、盗んだ物を寄付したり、飾って鑑賞したりしますし」

「ああ、なるほどな。心配しなくても、大丈夫だ。大体、盗んだ物に危害がないと、ギルドから金が出てくる。壊したり、傷をつけたりしたら、金はもらえないんだ」

「えっ!盗賊ギルドが出すんですか?」

「あまり、表沙汰にはなっていないが、怪盗ギルドってギルドがあんだよ。そして、盗賊ギルドなんてものはない。確かに、盗賊って職業があるが、あいつらは冒険者ギルドに登録している」

「なるほど。ということは、私とリナも怪盗ギルドからお給料が出るわけですか?」

「まぁ、そうだな。……正式な手続きはしているが、まだ結果が出ていないから、もう少し待っててくれ。多分、場合によっては実技もある。とりあえず、近くなったら知らせることにする」

「わかりました」

「とりあえず、そんなところか?」

「あっ、そうですね。このくらいで大丈夫です」

「じゃあ、会計するか」

 私達は、お店を出て、次のお店に向かうことにする。次は、洋服屋に行くらしい。

「いらっしゃいませ」

「どれにするか、決まったら教えてくれ」

「分かりました」

 私は、適当な服を選んで買うことを決めたけれど、どの服も可愛らしかった。そして、服を選んでいる最中に、店員さんの視線が気になっていたけれど、あまり気にしない振りをしていた。ガロウさんが、少し席を離れると、こっちに向かって来て、こう言った。

「デート、頑張って下さい!」

「っ!?」

 私は、その店員さんの一言で、ようやく気がついた。『これ、デートだなぁ』と。そして、意識した途端、頬から全身が真っ赤になっていく。その反応を見て、店員さんはニコニコしていたのを、さらに笑みを深めていた。

「いやぁ、初々しくていいですねぇ。若い人のそういう姿を見るのが楽しいんですよ。ぜひ、当店でお買い物をしつつ、仲を深めていってください。そして、当店の商品で、あの男性を射止めて下さい!大丈夫です。今、選んでいるお洋服は、お客様にお似合いです」

「あの、えっと、その」

「あら、すみませんでした。では、引き続き、お買い物を楽しんで下さい」

 そういって、店員さんはお辞儀をして、颯爽と去っていった。嬉しそうにしながら仕事をしているのは、気のせいだろうか。そして、ガロウさんが、戻ってきていても、私の全身は赤かったので、心配された。病気ではないと伝えて、納得されたから良かった。そして、服を会計して、外に出た。

「えっと、次は」

 その時、私のお腹の音が少しなった。ガロウさんは、クスクス笑いだしていた。

「ちょっと、笑わないでください!」

「いやぁ、すまんすまん。おやつにするか?もう15時近いもんな。そこの、パンケーキ屋が美味しいって有名なんだよな」

「じゃあ、そこのパンケーキを食べたいです」

「決まりだな」

 私達は、パンケーキ屋に入った。パンケーキ屋と言うだけはあると思うほど、女性客で賑わっていた。

「見事に女性客が多いな。まぁ、仕方ないか。ルノ、メニュー表を見てるけど、なんか食べたいのあるか?」

「ショコラパンケーキを食べてみたいです」

「それは、確かトッピングと枚数が選べたはずだぞ。トッピングと枚数はどうするんだ?」

「枚数は1枚、トッピングはバニラアイスでお願いします」

「分かった。俺は、ストロベリーパンケーキを1枚、トッピングはブルーベリージャムで」

「ショコラパンケーキを1品、トッピングはバニラアイスで、ストロベリーパンケーキを1品、トッピングはブルーベリージャムでございますね。少々お待ち下さい」

「ガロウさん、このお店何回か来たことあるんですか?」

「ん?ああ、ダラグとかなり来ているな」

「えっ?ダラグさんですか?」

「意外だろ?あいつ、ああ見えて甘い物好きなんだよ。何度も行っているからか、クーポン券をもらっている」

「そうなんですね」

 そんな話をしながら、私達は、パンケーキを待っていた。注文をしてから20分後、美味しそうなパンケーキが、私達の前に運ばれて来た。

「美味しそうですね。いただきます」

「だな。いただきます」

「美味しい!このまま、他のパンケーキも食べたいぐらいです」

「ここのパンケーキはいつ食べても上手いからなぁ。ルノ、ほっぺに、アイスがついている」

「えっ、どこですか?こっち?」

「そっちじゃねぇ。ほら、こっちだ」

 そう言って、ガロウさんは私の頬についたバニラアイスを、ガロウさんの手で拭き取った。

「ーーっ!」

「?どうしたんだ?」

 今の私は、ガロウさんの顔をまともに見ることができないぐらい、顔が真っ赤になっているだろう。ガロウさんは、多分今私にした事の恥ずかしさをよくわかっていないんだろう。首を傾げているぐらいだもん。顔をあげたら、ガロウさんは自分の指に着いていたバニラアイスをパクっと食べた。その光景を見て、また恥ずかしくなった。

 そして、パンケーキ屋を出て、まっすぐ怪盗団の基地に帰った。基地の、私とリナが借りているところで、リナがいた。私の帰りに気がついたようで、こちらに体が向かっていた。

「ルノ様、おかえりなさいませ。お出かけはどうでした?」

「あ、うん。お目当ての物は買ってきて、リナの分の服も買ってきたわよ」

「そうではなくて。ガロウ様と一緒でしたが、楽しかったですか?」

「うええっ?そっち!?」

「そうですよ。楽しかったですか?」

「楽しかったわよ……」

「ルノ様、お顔が真っ赤ですよ?」

「っもう!リナの意地悪!」

「あはは、ルノ様すみませんでした」

 この日は、リナと一緒にずっと喋っていた。

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