第19話 公爵の末路
私は、元父親に連れられて、望んでもいないのに勝手に作られた婚約者の所に、行くことになってしまった。ガロウさん達は、私の合図でいつでも出てくる。婚約者がどんな相手で、どんな性格しているかを見定めたら、乗り込んでもらうつもりだ。
「テスター子爵、娘を連れて来たぞ」
「エカバリー公爵様、わざわざここまですみませんでした。それで、そちらが
「ええ」
テスター子爵家。確か、あそこは前にガロウさん達がエカバリー公爵家に盗みに入る前に、入った所だと思う。私の記憶では、現当主……目の前にいる人は性格が最悪。あとは、次男と三男には会ったことがある。長男は知らないけれど、次男は、現当主の性格をそっくりそのままにした人。三男は、まともだった気がする。まぁ、どちらも、私が7歳になる前の話だったから、今変わっていてもおかしくない。
「異能力は何を使えますか?」
「冷気と蜘蛛の糸を操る事ができます。腕輪をさせているのは、落ち着かせて話し合いをするためです」
「なるほど。それがそちらの家で大切にしている腕輪ですか」
「はい。そうです」
「いやぁ、それにしても、可愛らしい顔立ちですね。家同士のやり取りでなければ、私の側妻にしたいぐらいですよ」
何が『落ち着いて話し合いするため』なのよ?そんなに暴走しない事ぐらいわかっているのに。あと、テスター子爵はもう数え切れない程、奥様いるでしょ。
「じゃあ、三男が飽きた時に貰ったらどうです?」
「おお、いいですな」
非人道的な会話を大人2人がしながら、テスター子爵家の応接室に到着した。
「お父様、遅いですよ?……えっ、エカバリー公爵様!なんでここに?それに、隣の女の子は?」
「ドグ、これが、お前の将来結婚相手のルノさんだ。仲良くするように」
「はあ?僕にはエミがいるんだけど?」
「あいつは、平民だろう。いい加減に現実を見なさい。子爵は、ご先祖さまが頑張って得た役どころだ。それを、棒に振るなんて、おかしいと思わないのか?」
「少なくとも、あんたよりかはまともだよ。いきなり説明もなしに、『この人が婚約者』とか言わないでしょ。オマケに、この証拠があるから、言い逃れ出来ないよ」
そう言い、テスター子爵家の三男……ドグは、私達の前に、とある四角い道具を置いた。私と元父親はなんだったか分からなかったが、テスター子爵家は分かったらしい。みるみる内に顔が青ざめていった。
「じゃあ、いくよ」
『家同士のやり取りでなければ、私の側妻にしたいぐらいですよ』
『じゃあ、三男が飽きた時に貰ったらどうです?』
『おお、いいですな』
まさかの、さっきの会話が、残っていた。そして、それを聞いて、ようやく元父親も事態がまずい事を把握したらしい。
「僕の異能力……魔道具作りだったの、忘れてたわけじゃないよね?父様は、前にエミに暴言吐いたって聞いたから使ったけれど、他の人わかんなそうだし、説明するね。これは、音声をとる事ができる魔道具なんだ。僕が頑張って許可証をとったから、国王は効果を知っている。これを王宮で流したら、父様も無事ではないよ」
「……」
「……」
「君も……確か、ルノさんだっけ?僕の結婚相手になりたかったのなら、ごめん。でも、僕は、どうしても忘れられない相手がいるんだ。その人の旦那さんになるって望むのは、ダメな事、かな?」
「そんな事ないです。その考え方自身素敵です。結ばれたい相手と結ばれる事は決して簡単ではありません。そうなるべく、努力する事も同じく。それに、私も努力する姿は見習うべきだと思いました」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ちゃんと彼女を守れる立派な男になりたいです」
「あなたなら、なれますよ。きっと。では、双方婚約は成り立たないという事で、婚約破棄でお願いします」
「あはは、いいですよ」
「「それは認めん!」」
いい話でまとめようとしていたら、急におじさん2人が復活した。あと、このまま私が無事に帰れたらこの2人には、危害が及ばなかったのに。というか、元父親に至っては水の異能力は、危機察知に優れているはずなのに、全く働いている気配がない。多分壊れているんだろうなーと思っていたら、おじさん2人は元気になっていた。
「大体、お前達には、異能力があるんだ。お互いの異能力を残し合うために、この縁談を組ませてもらっているんだ。そこに、感謝はないのか?」
「テスター子爵のいう通りだ。ルノ、ドグ君、一時的な感情に任せた所で、行き着く所は厳しい未来だ」
「それを承知で言っているのよ?」
「むしろ、この縁談をこのまま押し通せるとでも?証拠があるし、これを壊したら、国王に連絡行くんだぞ?」
「「グッ……」」
「もう、諦めたら?」
「「こうなったら、勝負!」」
「もう、お前らいい加減にしろ」
その声を待っていた。ドグ君は、察していたみたいで、おじさん2人は謎の声にうろたえていた。そして、屋根裏からガロウさんが出てきた。多分、他の人は待機だろう。
「散々な扱いされてきたやつが、言うこと聞くと思っていんのか?大きな間違いだな。その間違いに気づかないまま、言うこと聞かせようなんて、できるわけないだろ?もうちょっと、下の人の気持ちを考えろ」
「なんなんだ、お前は?!勝手に来るんじゃない!いいだろう!そっちがその気なら、こっちだってやってやる!」
「おう。望むところだ」
戦闘が始まりそうだった。そのため、私とドグ君は、リナの操っている蝶に導かれながら、テスター子爵家を出る事にした。
そして、しばらくして、私はリナと合流した。リナに事情を聞くと、月影さんとダラグさんは、もうガロウさんの応援に向かったらしい。そして、リナにさっきまでの事情を話すと、ドグ君をエミさんの元に送る事にした。さっきと同じで、蝶に送ってもらった。ドグ君は、私達に感謝していた。
そして、しばらくして、テスター子爵家のあたりから、ガロウさん達が出てきた。
「帰るか」
「そうですね」
「ルノ、嬉しいか?」
「はい。今、とっても嬉しいです」
そして、私達は、孤児院に向かった。いくら、隣国とはいえ、そろそろ朝だろう。孤児院の人には、心配をかけてしまうかもしれない。だから、私達は急いで戻った。
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