第10話 女郎蜘蛛の沙羅による訓練
孤児院に泊まった翌朝。私以外の人は、何かと忙しく動いていた。まず、リナは私の異能力の開花の件で、ガロウさんに報告している。ガロウさんとリナは、その処理に追われている。次に、月影さんとダラグさんは、ガロウさんに色々言われて、孤児院の周りの調査をしている。孤児院の子供達と遊びたいけれど、院長先生は、『リルがさらわれそうになったので、子供達には、室内で遊ぶようにさせます』と言われてしまった。また、『ルノさんも、リルの件で、疲れているでしょうし、無理しないで下さい』と、遠回しに遊ぶのは、遠慮して下さいと言われてしまった。
そんなこんなで、完全に暇になってしまった。しばらく、お客さん用の部屋でゴロゴロしていると、ふといい事を思いついた。女郎蜘蛛の沙羅さんを呼び出して、訓練をすればいいのだ。そうと決まれば、私は急いで部屋を出て、左手を掲げた。すると、沙羅さんだけが出てきた。
「我が主、わっちを呼ぶとは、何事じゃ?」
「沙羅さんに、異能力を教えてもらいたいのです。異能力が使えるようになったのが最近なので、使い方がさっぱりなんです」
「なるほどのぅ。しかし、基本的には、教える事は無いと思うのじゃ」
「えっ、どうしてですか?」
「基本的には、イメージをすることで使えるようになるのじゃ。まぁ、イメージすることが、難しいなら、わっちの力を借りる事じゃな」
「なるほど。そういえば、敵を察知する事って出来ますか?」
「なぜ、そのような事を聞くのじゃ?」
「実は……、」
私は、孤児院の現状を話して、リルちゃんがさらわれて、沙羅さん達と出会うまでを話した。
「なるほどのぅ。それで、自衛が、したいと言う訳じゃな」
「出来ますか?」
「わっちの能力だと、察知する事はできないが、罠を仕掛ける事はできる」
「本当ですか?」
「何なら、方法を教えてあげる事もできるぞ」
「え?でも、さっき出来ないって言ってませんでしたか?」
「わっちが思いついたものは、自由に使う事ができるのじゃ。それとも、教わりたくないと言うことかのぅ?」
「じゃあ、教えて下さい」
「では、蜘蛛の巣を見た事はあるかのぅ?」
「ありますよ」
「あれから、糸を想像してみるのじゃ」
「はい。……何か、左手が光ってません?」
「成功じゃ。それをそのまま、貼り付けたいところに手を触れるか、かざすかすると、罠の完成じゃ」
「えーっと、こんな感じで、かざすと……」
その時私の左手から、バシュッと速い音がして、勢いよく蜘蛛の糸が飛んだ。その後は、飛んだ蜘蛛の糸から蜘蛛の巣が出来た。
「成功じゃな」
「いや、これ目立ちますよね?」
「透明にするには、水に当てると透明になる」
「そうですか」
私は、院長先生に事情を話して、ジョウロと水道を借りた。その水をかけたら、本当に透明になった。消えたかと確認しようとしたところ、沙羅さんからストップされてしまった。
「そういう時は、糸を蜘蛛の巣の上に置くのじゃ」
「はい。置きましたよ」
「あとは、目を閉じて、蜘蛛の巣を意識してみるのじゃ。蜘蛛の巣を認知する事になれたら、目を開けていても、認知できるのじゃ。ちなみに、消したい時は、糸を切るイメージをすると、消えるのじゃ」
「分かりました」
「っと、そろそろ、時間じゃな。上手く活用してみて欲しいのじゃ」
「ありがとうございます」
そのあと、私は孤児院の周りに罠を3つ張った。まあまあ大きいので、3つで十分だったからね。その後水も忘れずにかけた。
この罠のおかげで、私が助かる事になるなんて、この時の私は思っていなかった。
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