第2話 ゴールドベルクの令嬢


 オーガタイプの「 」は、俺を最大の脅威とみなしたのか目標を俺に切り替えていた。

 これで、シェルターから引き離してやれれば……多くの人の命を、きっと先に避難しただろう妹の命を救えるはずだ。


 「こっちに来いっ!!」


 五秒間のリロード時間を空けて何発も何発も撃ち込む。

 そのどれもが命中し「 」の体を突き抜けていく。

 しかし、それでも「 」が動きを止めることはなかった。


 「何処を撃ったら致命打になるんだ!?」


 俺が攻撃する度に命中した箇所に、大穴を穿つのだがリロードする間にそれはふさがってしまうのだ。

 

 「なら、狙いを変えて……」


 スコープを覗き脳を狙うべく照準を額の中央に合わせる。

 

 「これでっ……」


 トリガーを引く。

 バウゥゥゥゥゥゥゥン―――

 撃ち出された光は額を貫くが……「 」は止まることはない。


 「えっ……こ、これでもダメなのか……?」


 撃っても効果はなく縮まるばかりの俺と「 」の距離をみて、自分が死ぬ光景が脳裏をよぎる。


 「……っ」

 

 その考えを振り払い照準を合わせてトリガーを引く。

 引く、引く、引く、引く、引く。

 そのどれもが効果を見せることはなかった。

 このままじゃ、本当にさっきの光景が現実のものとなってしまう。

 五秒のリロード時間を終えて再びトリガーを引くがその威力は、なぜか脳を狙った今までよりも弱く、貫くことはなかった。


 「なんでっ!?」


 わからないままに、トリガーを引く。

 しかしそれは、額にあたる前に霧散してしまう。


 「どうしてなんだよっ!?」


 眩暈がする、平衡感覚が保てない。

 きっと、この銃に力を吸われすぎたんだろう。

 妹がいれば「なれないことするからだよ」と笑いながら怒ってくれるだろう……。

 

 「っ……ぅっ……」


 足も覚束ない。

 気づけば「 」は、もうすぐそこだった。

 手に握っていたはずのライフルは急速に質量を失い消えていく。

 

 「もうダメだな……ごめん、ティリス……見つけてやれなかった……」


 大量の砂埃を巻き上げ「 」が足を挙げる。

 だんだん大きくなるその陰―――





 第二戦区CS-03ケルンに二機の輸送機が着陸した。

 輸送機の後部ハッチが開き、一台ずつの軍用ヴィークルが降り街の中へと走り出す。


 「リーヴァイスの班は、この場にとどまって火力支援をお願い」

 「わかった、隊長さんはどうすんだ?」


 リーヴァイスと呼ばれた白髪に褐色の肌の男が隣をはしるヴィークルに向かって声をかける。

 

 「私は、避難できていない民間人の救出に行くわ」


 隊長と呼ばれた少女は、戦地に似つかない美しくつややかな白銀の髪に紅の眼をしている。


 「わぁったよ」

 「頼むわ」

 

 そう言うと少女の乗るヴィークルはアクセルを踏んだのか勢いよく走っていく。

 リーヴァイスと同じヴィークルに乗っていた隊員達は、その場で降車し己の手に大口径の砲を顕現させた。


 「ゴールドベルグ家の令嬢だか何だか知らんが女の癖して命令しやがって……クソっ。が、あの女も今日で終わりだろうよ。おめえら、俺が昨日指示した通りでいくぜ」


 



 

 「にしても大きい……」


 白銀の髪の少女は、思わずといったふうにそう漏らした。


 「アンナは右をイリスを左を見てて」


 速度を落としたヴィークルは、避難できていない生存者を捜索し始めた。

  

 「Gruuuuuuuaaaaaa!!」


 頭上から耳をつんざくような音が聞こえてハンドルを握っていることも忘れて見上げる。

 赤色のたった一条の光が「 」の胸を貫いていた。


 「まだ、戦闘員がいるのですね。にしてもあれを貫くとはすごい威力です」


 後部座席の右側にいるブロンドヘアの少女が小さな声でつぶやく。


 「だったら救出に行くべきね」


 白銀の少女は、眦をけっしてヴィークルのアクセルを踏み込んだ。

 しばらく走るうちに赤い火箭を見ることはなくなった。


 「死んでしまったのか……」


 後部座席の左側、黒髪の少女は顔に憂色を浮かべる。


 「諦めたらそこで終わりよ、行くわ」


 先ほどまで火箭を放っていただろう地点に近づき、はたしてそこには―――――一人の少年がいた。

 

 「軍属じゃないわね……どうして一人で……」


 そしてその少年の上には、大きな影が迫っていて――


 「アンナ、イリス!! しっかりつかまってて!!」


 ヴィークルは最高速に達し、徐々にその大きさを増す影の下を抜けて左後部座席の少女が


 「少年っ!!」


 さらうように少年を車の中に引きづり込んだ。

 その直後、先程まで少年が立っていたところを大きな足が踏み抜いた。


 「これ以上の捜索は諦め、シェルターに避難した住民の救出活動にあたるわ」

 「了解です」

 「心得た」


 三人の少女と一人の民間人の少年を乗せたヴィークルは速度をそのままに輸送機のいる地点に向けて街を走り抜けていく。

 そのころようやく、後方からの火力支援が始まった。

 人間なら丹田のある当たりに狙ったかのように四発の砲撃が命中しオーガタイプの「 」はその場に倒れ伏し活動をやめた。

 が、「 」の倒れた真下にはシェルターがあり、体長が百数十mにも及ぶ「 」の重みに耐えれるはずもなく――――。

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