カーネーション
母の日の思い出、と言えば、誰もが思い出す花、カーネーション。
私の母は、カーネーションが嫌いです。理由はよくわからない。単なる好みのようです。が……、
小学生の頃、3年生くらいだったでしょうか。私は自分のお小遣いというものを持っていなくて、いつも、親に買ってほしいものを言って、親が買っていいと判断すれば買ってもらっていました。
本当は、親に内緒で食べたいお菓子もあったり、友達と同じような文房具が欲しかったりもしたのかも知れません。何が欲しかったのか、今では全く覚えていません。
が、ある日、何かが欲しかった私は、親が小銭を貯めていた貯金箱から、お金をちょっとだけ貰ってしまおう、と思いました。
貯金箱は、缶でできていて、中のお金はとれません。逆さにして振ってみたけどとれませんでした。
缶を開けるしかない。缶切りで開けよう。
このあたりが子供ですね。後先考えていない(笑)。
どうせ1円か5円しか入ってないと思っていた缶の中には、意外にも沢山の10円玉も、50円玉まで入っていたりしました。
「えっ?」
ここへきて自分が大変なことをしてしまったことに気付きます。
「どうしよう……」
どうしようもこうしようもないですよね。開けてしまった缶は元には戻せない。
何がそんなに欲しかったのか覚えていません。ただ、開けてしまったものはしかたない、返すわけにもいかず、そのまま、2回か3回か、そこから盗っては、使った覚えがあります。でも、そうしているうちに怖くなって、開けてしまった貯金箱を持って母のところに行きました。全部話して、わあわあ泣いて、謝りました。
母は、怒りませんでした。何がそんなに欲しかったのか聞かれました。
「……」
答えられません。多分、「これ」っていうものはなかったんじゃないかな。
私の様子を見ていた母が言いました。
「お小遣い制にしようか?」
「何それ?」
「毎月なんぼ、って決めるんや」
「ちえちゃんとこと一緒やわ」
「ちえちゃん、なんぼもらいよん?」
「知らん」
「そうやな、500円……では少ない?」
小学生には、大金です。
「そんなにもろてもええん?」
「その代わり、お菓子とかはそこから買うんやで。ように考えてつかわな、すぐなくなってしまうで」
私は大きく頷きました。
自分で言うのもなんですが、私は真面目な子です。本当に欲しいものかどうかを一生懸命見極めて、欲しい物だけ買い、あとは自分の貯金箱に入れました。
この癖がいまだに残っていて、私の貯金箱には毎年4,000円〜5,000円くらいの小銭が貯まります。夫には内緒ですが、大きいお金も貯まります(笑)。
お小遣いを貰い始めて、初めての母の日。私は近くの花屋さんで、初めて、カーネーションを一本買いました。母の喜ぶ顔が浮かび、ルンルン気分で家に帰ります。
「お母さん、母の日、はい」
と、差し出したカーネーションを見て、母が一言。
「え? 私、カーネーション好かんのやけど」
母よ……。
あれ以来、母には二度とカーネーションは贈らないことにしています。他の花やお菓子なんかは沢山贈ってきたけれど。意地でもカーネーションは贈りません(笑)。
そんなことは知らない義理の妹(長男のお嫁さんで同居中)は、毎年のように、カーネーションの鉢を贈る。母も流石に嫁さんには言えないようです。
いつか教えてあげた方がいいかしら?
「うちの母、カーネーションとシクラメンは嫌いやで」
と。
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