第2話 神域

 宇宙を漂う田原さんをうまいこと回収した国際宇宙空間ステーション号。

 船内に無事、招き入れられると、彼の登場に歓喜が沸き起こった。


 どうやら、田原さんの超絶バトルに驚きを隠せない様子。

 そりゃあ、そうよ。だって、ハリウッド映画じゃあるまいし、超高速で飛来するスペースデブリを掴めないでしょ、ふつう。


「す、すごい……」

「おじょーちゃん、また会ったな」

「一体全体、どうやって!? あのロケットは?」

「地球からカクエちゃんのピンチを見ちまってな。急いでNASのロケットに乗っちまったぜ」

「NAS? NASAじゃなくて?」


「あれ? カクエちゃん知らねーのかい。国際宇宙財団『生で、朝まで、してね』通称NASを。もちろん出資は***********がしてるぜ。伏字はカクエちゃんが推測してくれればいいや」


 得意気にそう語る田原さんの登場に、わたしをナンパしていたクルーたちは新たなライバル出現に、彼に負けないように互いに目配せする。そんな彼らを嘲笑うかのように、


「おいおい、お前らはナンパする時でしか仲良くできねーのかよ。ちっちぇ地球でいがみ合ってるんじゃねーぞ」


 彼らを一喝すると同時に、またしても船内にうううう~んと非常サイレンが鳴り響く。

 明らかにやばい警告音に、一堂顔を見合わせた。

 異常を発する計器を確認した日本人クルーが叫ぶ。


「超巨大隕石が地球目掛けてやってくるぞっ!」


 超巨大隕石――それは、太古の昔に地球に飛来して、時の支配者である恐竜を絶滅させたと言われている。

 そんな、超巨大パワーが地球に衝突でもしたら……


 今度こそわたしは、いや人類は……


 その時、田原が動いた。

 宇宙服を着ることなく、船内用のTシャツ、ハーフパンツで船外に飛び出そうとしていた。


「た、田原さん、ここって宇宙ですよ! 酸素ないですからっ!」


「おいおい、おじょーちゃん。突撃取材はいつだってこっちの都合は考慮してくれねーよ。それに――」

「そ、それに?」








「あんた、文学の世界を常識で満たしちゃだめだよ」







「!?」


「宇宙なんて、ちょっと息止めれば余裕だぜ」

 その言葉を最後に、強引にハッチを開けて田原総一朗が漆黒の宇宙に飛び出した。


「ファッキンクレイジー! タハーラあっ!」


 息を止めながら顔を真っ赤に膨らませた田原さんが、迫りくるタワーマンション2棟分ぐらいの超巨大隕石をがしっと両手で受け止めた。


 超巨大隕石を受け止め、もりもり筋肉が内側から盛り上がり、びりびりTシャツが破れていく。ステーション号の窓からも、彼のお腹がシックスパックに割れているのが確認できた。


 やがて、田原さんは隕石を抱えながらぐるぐると旋回し、その遠心力を利用して、たぶん木星の方向に投げ飛ばした。

 投げ飛ばされた隕石は、きらんと星屑になっていく。


 超人。


 もうすぐ米寿……だよね。


 そんな彼の雄姿を遠くから眺めて、なぜだか下腹部に熱いものが込み上げて。


 やだっ! わたしったら、こんなヤバイ状況ではしたなくない!?


 でも、こんな呑気な欲情に浸ってられない状況が差しせまるるううわわわわ――あちちちちち。

 いつの間にやら意識が朦朧とするくらいに船内が高温に熱せられ、再び計器が激しく左右にぶれていく。


「今度こそダメだ! 太陽がなぜか活発になって、地球全体にフレアを降り注ぎ始めているっ!」


 こ、こんなのって。流石の田原さんも、いや、地球そのものが……。

 絶望の涙を浮かべて、ミニスカートの端をぎゅっと握る。


 もう……ダメ……だ。


 その時――


 田原さんはびりびりになったTシャツを勢いよく脱ぎ去り、大きく太陽に向かって扇ぎ始めた。


 え!? ちょっと待って。まさかの芭蕉扇で、太陽フレアを消そうとしてるわけ!?


 宇宙空間で声こそ出せないけど、きっと彼はこう言ってるに違いないわ!



「ジャーナリズムの風をおこしてやるよ!」



 って。

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