ピリオドを連打する

川谷パルテノン

輪廻

「あんたがツグミ? 昌子の紹介だかん口聞いてやっけどまず一個質問。これウチらとツルむんならめっちゃ重要だかん考えて答えたほーがいいよ。あんた、きのこの山派? たけのこの里派?」

これは通過儀礼。誰もが通る道或いは壁だった。

「わたし……」

「はっきり言いな」

「わたし、アノニマスなの」

 運命は硬直した。イニシアチブの取り方を忘れた私たちはさながら翼をもがれたエンジェルもしくはサーベルタイガーサーベル抜きだった。かつてこのような事態に見舞われたことはなく全身を貫く雷は私の精神を焼き尽くしたのである。

「あああアノニマス? なわけないじゃん! はあ? 昌子、アノニマスって何?」

「え、カエデ知らないの? ウチだって知らないよ!」

「アノニマスてめどこ中だあ!」

「ハンバーグの一種」

 山は火を噴き、地はひび割れて、海は高波、空は黒く鳴動す。コミニュケーションブレイクダウン。この彫元堀ほりもとぼりツグミという女に全てを壊されようとしていた私は当時17歳。いわばその花散り知らず。何はともあれ無敵のセブンティーンなはずがそうではないと告げられていた。圧倒的強者。それは圧倒的な強者のことだ。彫元堀ツグミは私たちを脅かす。

「ねえ、帰っていい?」

「ダメに決まってんだろ! おとしまえ! つけさせてやんよ! おい! ヒロミ! 出してやれ!」

 ヒロミはその豊満な谷間からねるねるねるねを取り出した。体温でぬるい。

「コラァテメー! 今からコイツを永遠に練れ! 授業中も! 寝る前も寝てからも練れ!」

「ピタッゴラッ」

「待て、よせ! やめろぉおお!」

「スイッチ♪」

 目の前が真っ暗になった。もう許してくれと懇願した。私は、私たちはただお前がきのこの山派だったらいいなって思っただけだった。でも敗残した。敗将多くを語らず。以降卒業まで私は力を持たなかった。そつなくこなして無事卒業し大学生になって就職して三年社会やって惚れた男と結婚して子供が生まれて全部が過去になった今、アノニマスをwikiってる。頬伝う一筋の雫は誰の為。


「あごめんね起きちゃったね」

「ア ア マ マ」

「え? 喋った? 今ママって! ねえヨシキちょ来て! 今ママって!」

「アア……アノニマス」

 

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ピリオドを連打する 川谷パルテノン @pefnk

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