第14話 六年後のシャルル

穏やかな天気の中、ドワーレ家の中庭では恒例のお茶会が開かれていた。

あちこちで緊張しながらも楽しそうにしているのは、

まだ幼さが残る十歳から十四歳までの令嬢たちだ。


令嬢たちはいくつかのテーブルにわかれて座り、

主催であるシャルルがまわってくるのを待ちながら、

隣の令嬢とのおしゃべりを楽しんでいる。


最初のお茶会は三年前のことだった。

公爵家からの招待を断れなかった下位貴族の数人しか出席しなかったが、

次第に下位貴族だけでなく高位貴族の家もちらほらと見えるようになった。


それは、今年二十四歳になるシャルルの評判が意外に良かったからだった。


十八歳になる年に心だけ七歳に戻ってしまったシャルルだったが、

三年もすれば公爵令息として立ち回ることもできるようになっていた。

もちろん、心の年齢は十歳だが、

身体が二十一歳ということも何となく理解しているからか、

穏やかな貴公子という感じであった。


これは元のシャルルも幼いころから当主になるために教育されてきて、

微笑みを絶やさないような穏やかな性格だったのだが、

なぜかローズマリーに関することだけおかしかったのだ。


今のシャルルにはローズマリーの存在はなく、おかしくなることもない。

公爵令息として問題なく行動できていたため、評判は悪くなかった。

それがお茶会の出席者から伝わるようになると、少しずつ出席する家も増え、

こうして高位貴族も参加するようになっていた。


お茶会が始まればシャルルは一つ一つのテーブルを回り、

令嬢たちと会話を交わし、もし気に入った子がいれば個別にお茶に呼ぶ。

このお茶会はシャルルの婚約者を探すために公爵が招待しているものだ。

当然、シャルルとしても婚約者を探すつもりはあった。


ドワーレ公爵はこのお茶会の出席者でシャルルが気に入る子がいれば、

それがどんな家の令嬢であっても許すつもりだった。

だが、なかなかシャルルが気に入る子は現れなかった。


今日こそはと公爵が期待して隠れて見ていると、

次のテーブルに移ろうとしたシャルルの動きが止まった。

視線は次のテーブルに座っている子爵令嬢の一人にくぎ付けになっている。

もしかしてと思った公爵は、すぐさまシャルルを連れてくるように使用人に言う。


すぐに連れてこられたシャルルはぼうっとしたままだった。


「シャルル?もしかして気に入った子がいたんじゃないか?」


「気に入った子…。」


「あの子爵令嬢が気に入ったのか?」


「…。」


問いかけられているシャルルの反応は薄いのに、

興奮した公爵はシャルルが気に入った子を逃すまいと畳みかける。

シャルルの顔色が悪くなっていくのにも全く気が付かないでいた。



「シャルルが気に入ったのなら、

 あの子爵令嬢を呼んで、すぐさま婚約してもいいんだぞ?」


「子爵令嬢…婚約…あぁぁぁぁあああああああああああ!」



今まで黙っていたシャルルが急に叫び出した上、

頭を抱えてしゃがみこんだものだから、公爵も使用人たちも慌てだした。

ついにはシャルルは意識を無くし、床に倒れこんだ。


「シャルル! おい、医術師を呼べ!!」








あぁ、どうして忘れていたんだろう。


栗色の髪が風にさらさらと流れて、くすぐったそうに笑うのが好きだった。

俺にはむけてもらえなかったけれど、

チョコレートを食べた時にうれしそうに微笑むのが好きだった。

丸い栗色の瞳が、楽しそうな時にきらっと光るのを見たかった。

小さな声だけど、可愛らしい声でシャルル様と呼んでくれるのがうれしかった。


どうして全部忘れていたんだろう。

あんなにもローズマリーが大好きで、

彼女以外いらないとさえ思っていたというのに。


…俺が死なせたというのに。



「シャルル、ローズマリーのことを思い出した?」


「…ミラージュ?」


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