第7話 公爵、ふたたび
すべての作業を終えてシャルルが安定したのを確認して部屋から出ると、
ドワーレ公爵が廊下で待ち構えていた。
「終わったのかい?」
「ええ。」
「では、お茶を用意している。応接室へいこう。」
もう終わったし早く帰りたかったけれど、どうやら何か話があるらしい。
シャルルのことももう一度説明したほうがいいかと思い直して、
応接室へとついていった。
「シャルルはどのくらいで回復するのだろうか?」
「本人は起きたら七歳の普通の日だわ。
何も覚えていないから、特別扱いはしないで。
身体は弱っているでしょうが、風邪をひいたことにでもして。
勉強や剣術はしばらくは無理でしょうけど…。
そのうち元通り動けるようになるわ。」
「そうか…実は見合いを兼ねたお茶会を開こうと思ったんだが、
招待状を出しても高位貴族のすべての家に断られた。」
「え?ロゼリアたちにも?」
ローズマリーがいなくなれば、
あの追っかけ令嬢三人のうちの誰かが婚約者になるんだと思っていた。
身分としても問題ないし、三人とも婚約者もいない。
これ幸いとシャルルに言い寄ると思っていたのに。
「…最初にあの三家に話をしたんだ。
あの令嬢たちなら喜んで婚約するだろうと思ってね。
だが、どの家もこれ以上評判を落とすわけにはいかないと。」
「あぁ、なるほど。
予想以上に評判が落ちてしまったってことね。
これ以上落ちるようだと家の存続までの問題になってくると。」
あの三人はローズマリーをいじめて殺したと噂になり、
学園に通うこともできなくなっていた。
そんな状況でドワーレ公爵家に嫁いだとしても、一生罪が付いて回る。
公爵家主催のお茶会を開いても誰も出席しないこともありえる。
それでも、こんなことになった以上はシャルル以外の嫁ぎ先は無いだろうし、
多少のことは目をつぶって婚約させるのかと思っていた。
それが…娘を切り捨てなければいけないほど噂が出回っているのか。
生家の評判が悪くなれば、嫡男の婚約も危うくなる。
家の存続がかかっているのならば、公爵家からの申し出を断るのも仕方ない。
切り捨てられた令嬢三人は修道院にでも行かされるに違いない。
きっと今後は社交界で顔を合わせることもないだろう。
「下位貴族を公爵夫人にするには時間がかかる。
今から探すのも…難しい。」
「それはそうでしょうね。
ローズマリーは十年も教育されていたのですから。
簡単にはいかないでしょう。
それに…下位貴族たちもローズマリーと同じようになるかもと思ったら、
いくら公爵家からの申し出だとしても嫌がるでしょうね。」
本当におろかだ。
そこまでわかっていたのに、どうしてローズマリーを大事にしなかったのか。
思わずため息をつきそうになったけれど、公爵の次の言葉で動きが止まった。
「で、考えたのだが…。
やっぱりミラージュ王女がうちに嫁いでもらえないか?」
「は?」
「辺境伯はミラージュ王女の子どもでもいいだろう?
ミラージュ王女が二人以上産んでくれれば解決する!」
「はぁぁぁあ?」
もう馬鹿なの?ねぇ、馬鹿なんだよね?
呆れすぎて何から文句を言えばいいのかもわからなくなる。
「あのねぇ!…っ。」
ふいに後ろから抱きしめられ、顔を上を向かされたと思ったら口をふさがれた。
一瞬だけど強く口づけられて驚いていると、リュカが険しい顔で公爵を威嚇する。
「!?」
「ドワーレ公爵、こういうことです。
もうミラージュは俺のものなので、他にはやれません。」
私をぎゅっと抱きしめたまま離さず、公爵へとかみついたリュカに、
目の前でこんなことを見せつけられた公爵がめずらしく動揺している。
「おま、おまえ、侍従じゃないのか??」
「一応、侯爵家の二男なので、ずっとミラージュの婚約者候補でした。
ミラージュが辺境伯になることを公表するときに俺のことも公表される予定です。
俺が婿入りすることも決定しているんで。」
「は…そうなのか…?」
「…リュカ、我慢できなかったの?」
「こういうのははっきり言っておかないと、また言われるからな。」
「まぁ、それもそうかも。
というわけだから、ドワーレ公爵はあきらめてね。
シャルルの婚約者は七歳の子を選べばいいんじゃないの?
だって、今のシャルルは七歳だもの。すぐに結婚なんて無理だわ。
七歳の子を今から教育するのであれば下位貴族でもいいんじゃない?
シャルルだって、領主教育を一からやり直しなんだから頑張らないとね。
まぁ、しばらくは婚約者探しはあきらめて、
忘れた頃に下位貴族たちにお茶会の招待状を送れば?」
「…また一から…。」
「自業自得でしょ。じゃあ、私は帰るわ。」
がっくりしている公爵はほっといて応接室を出る。
リュカがしたことは驚いたけれど、
確かにはっきりわからせなかったらまた言われていただろう。
これほどまで公爵が愚かだとは思わなかったけれど、
だからこそローズマリーを死なせるまで気が付かなかったのかと思う。
「もうここに来ることは無いわね。」
「俺としてもそのほうがうれしいな。」
「よっぽどシャルルが嫌いなのね。」
「ああ。好いた女を大事にしないなんて馬鹿はいらないな。」
「もう。」
馬車の中、私の手を大事そうにとるリュカに、もう文句は言えなくなる。
こんな風にシャルルがローズマリーを大事にできていれば、
違う未来があったかもしれないのに。
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