誕生日

【若ガージと子アル】

 十一月六日


 街が夕暮れに染まる頃、慌ただしく扉を開け駆け込む足音が、リビングで止まった。

「ガージ! ガージガージ!!」

「うるさいぞ」

 自室からのっそり現れたなり、名前を呼びながら家中を走り回るアルを抱き上げる形で捕まえる。いつもなら不機嫌な顔で睨まれる流れだったが、この日は違った。期待に目を輝かせ、アルが聞く。

「今日は何の日だ?」

「……アルフェリア王女の生誕記念日だ」

「違うだろー。おーれーのっ! 誕生日だ!」

「違わないって。ほら、手ぇ洗ってこい。夕飯作るぞ」


 夕飯を食べながら問いかける。

「お前、いつ思い出した?」

「んー。帰ってる途中。立ち話で聞こえたんだ……そいつらも、王女のこと話してたけど」

 口先を不満で尖らせながら、皿の上のニンジンを端に避ける。

「好き嫌いするなよ」

「腹いっぱい」

「そうか、残念だな。折角ケーキを用意してたのになぁ」

「ケーキ!」

「……の前に、まず、そいつら」

「うー……」

 不機嫌に唸って端に避けていたニンジンを口に運ぶ様子を笑って見ていたガージは、昔を懐かしむように呟いた。

「ルース陛下にも見せてやりたいなぁ……」

 アルが顔をあげて、首を傾げる。

「なんで?」

「さぁ?」

 はぐらかしたガージはアルの前にあった最後の皿を片付けて、デザートを差し出した。

「どうぞお召し上がりください。我が家のアルフェリア王女」

「うむ。苦しゅうないぞ。……ははっ」

 噴き出したアルは「おれは護られるより護れるようになるけどな!」と付け足した。

 一時期、ガージの隣に立ち、共に戦えるくらい強くなるのだと言って聞かなかったが最近は比較的騒がなくなった。と思っていたらこれだ。どうやらまだまだ諦めるつもりはないようだ。

「アルは誰を護りたいんだ?」

「ガージ……と、一緒に王様探して、みんな護る!」

「そうかぁ。ニンジン残そうとするようじゃ、まーだまだ先になりそうだがなっ」

「ぅぐっ……すぐだ!」

「はっはっ。吠えろ吠えろー」

「バカガージ!」






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