未だ終わらぬ夜 5題


1.真っ赤な夜の幕開けに


 日が沈む。

 茜色の空を無感動に眺めた少年は、ため息ひとつ吐き出して、夕日に輝く水溜まりの中、一歩目を前に出す。

 抱えているのは助けたい気持ち。手に握るのは朱く輝く剣。


 夜が来る。

 町の明かりが、少年を照らす。

 どんな色も飲み込み、何色にも染まらない黒が行く。

 目指すは町一番の金持ちの家。



2.煌めく刃を握り締め


 目の前に広がるきらびやかな世界。

 壊しに来た少年はあまりに場違い。

 擦り切れ底の薄くなった靴は、堂々と厚みのある柔らかな絨毯を踏む。

 目指すは最奥。邪魔する者は切り捨てて。

 目指すは屋敷の主。叶わない願いを声にして。




3.反転世界に身を浸し


 町から消えた少年は、姿を変え、名前を変え、野良猫の様にさすらった。

 いくつの町を、国を、追われてはさすらい流浪の民。

 紅い目が見つめるのは、自分によく似た赤い目の少年。

 すっかり白くなった自分の髪と見比べて、それが何の意味も成さないと気付き、目を逸らす。

 相手はずっと少年を見ていたのに。




4.ただ殺戮のために生き


 互いに受け入れられる事はなく、目についたものを壊してく。

 互いに受け入れられる事はなく、次の町へ町へと歩いてく。

 いつ頃から囁かれたのか、流れる噂の殺人鬼。

 いつの頃からそうなったのか、旅する片目の殺人機。

 止められる人はどこにいる?




5.目覚める瞬間を待ち望む


 大切なものを失った。

 師と呼べる人を失った。

 自らの手で。


 大切なものを失った。

 人間でいる為にはそれが必要なのに。

 耐え切れなかった。


 大切なものを失った。

 分離した自分を繋ぎ合わせることができない。

 暴れる自分を止めることができない。

 誰もSOSに気付いてくれない。

 気付いて……気付いて……。

 助けて……助けて……。

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