繋がる世界

 世界は

 どこかで繋がっているのかもしれない。




  『繋がる世界』




 この国には、世界に関わる伝説がいくつかある。それは「世界を越えて旅する旅人」だったり、「日常が異世界と繋がる」などすぐには信じ難いものが多いが、現象が見られる条件には共通点がある。

 十二の紅い月と六の黒い太陽。

 不吉だとされるそれらが伝説に触れられる条件のひとつだった。

 昨日の夜はラジストの店に居たため空を見ることはなかったのだが、どうやら昨晩の月が紅かったらしいことは街で囁かれる噂から知ることができた。

 階段を調子よく降りていく。胸に抱えた紙袋の中で、真っ赤に熟れたりんごが揺れる。

 いつもは盗んでいるが、今回はラジストに頼まれた買い物の事もあって、堂々とりんごを手に入れることが出来た。


「これでしばらくは大丈夫だな」


 気持ちも足取りも軽く、馴染みの店へ向かう。細い路、短いトンネルをくぐり、角を何回か曲がり――いつもながら複雑な道程だ。

 入り組んだ中でも比較的広い路に出た。ラジストの店は目の前だ。



 ふと、違和感を覚えた。

 景色がいつもと違うように感じた。


「広い…?」


 ラジストの店の前は、入り組んだ路の中でも比較的広い。が、今は普段よりも道幅が広くなっているように思われた。そして、見覚えのない建物が混じっていることにも気付いた。


「なんだ……これ」


 混乱する頭に浮かんだのは街で囁かれていた噂。

 路の向こう側からアルと同じように紙袋を抱えて歩いてくる人をみつけた。

 銀色の髪、紫の眼。右腕は無いのか、袖が風に揺れている。

 王族は自分と兄を残して滅んだと聞いていた。

 しかし、銀髪と紫の眼はそうそういない為、色が似ていれば少なからず期待を持ってしまう。


 どこかで、繋がっているのではないか――。




 すれ違い、振り返った時にはもういつもの町並みだった。見慣れない建物も、さっきの青年も、どこにも見当たらない。


「今のは……」


 今のが伝説にある「世界が繋がる」ということだろうか。

 とても不可解。だが、不思議と悪い気はしなかった。



 ――たまにはそういうのも悪くない。



 伝説の切片に触れて、その日のアルは少し浮かれているようだった。




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