クルド視点


  * * *


 りんご泥棒が王に剣を突き付ける、その少し前。

 廊下を歩いていた私達は、見慣れない――でも見覚えのある――人とすれ違った。

「あ~《殺人機》の時のケガ人さんだぁ~」

「あ…ああ、あの時手当てしてくれた……その節はどうも。

 早速本題に入っちゃって悪いんだけど、アル君見なかったかな? また城に忍び込んでいるらしいんだけど――」


 ――りんご泥棒にしろ彼にしろ、何を堂々と不法侵入を重ねているのか。


 彼の茶色い目が私の方を見る。ぼやきが聞こえてしまったようだ。

「そういえば…エトランゼ、部屋に居なかったよねぇ。もしかして、一緒にいたりしてぇ~」

 りんご泥棒の仲間は「ん?」と首を傾げた。

 知らないのか。そう思うとつい、いつもの癖で

「今私達の所で預かってる奴の事よ。副都から来たって言ってたわ」

 言ってしまった。

 普段、分からない事があると何でも人に聞く相方がいるおかげで、不法侵入者にまで情報を教えてしまった……。

 警報が鳴り響く。

 城内はさっきまでの静けさが嘘のように慌ただしくなった。

 兵士達が皆同じ場所に向かって走っている。

「ソフィア、私達も走るよ」

「うん!」

 と、走り出す前に不法侵入者を捕まえておく。

 引きずる形で走りにくいが仕方ない。 放っておく訳にも行かないし。

「何か…《両手に華》みたいな状況になっちゃったね」

 ――危なくなったら盾にでもなって貰おう。



  * * *



 兵士の集まった場所は、絵画などでよく見られる《玉座の間》だった。


 王を追い詰め、剣の切っ先を彼の目の前に突き付けているのは――りんご泥棒。怒りを表す赤紫色の目が、王を睨みつけている。

 ――王に刃を向けるだなんてっ!!

 前にいる兵士を掻き分けて、王を助けに行こうとした。だけど……

「俺達の存在を否定するような事なんて言わせない!」

 何があったのかは、私達には分からない。

 息苦しい程緊迫した空気の中、りんご泥棒を宥めるように口出ししたのエトランゼだった。

「まあまあ、落ち着こうよアル。周りにはたくさんの兵士……こんな状況で王様を斬ったりなんかしたら――」

「そんなの関係ない。

 第一、お前は俺じゃなくて王側の立場だろ? 何でそんな暢気なんだよ」

「ん? だってオレ、ここの王がどうなろうと知ったこっちゃないし。むしろそっちの方が都合が良いって言うか――」

 エトランゼはそこで一旦言葉を切った。

 「王を斬った方が都合が良い」!? まさか……そんなこと……。

 エトランゼの言葉は「王を護る為、民を護る為に」と育てられた私には信じられないものだった。


 りんご泥棒の質問に謎の唄で答えたエトランゼは、窓を大きく開け放した。どうやらそこから飛び降りて脱出するつもりらしい。


「二人を捕まえろ」


 命令が下り、周りにいた兵士が一斉に二人を取り囲もうとした。

「じゃあ、また会おう。次に会った時にはオレの味方になってくれるよね?」

 飛び降りたエトランゼの声が遠ざかっていく。

「一緒に親の仇を討とう」

 りんご泥棒が周りの兵士を振り払い、飛び越えて、エトランゼの飛び降りた窓まで走り寄ったが、既に彼の姿はどこにもなかったようだ。

 結局りんご泥棒は捕らえられ、牢舎に連れていかれた。

「……クルドぉ……」

 ソフィアが遠慮がちに声をかける。

 ……そんなに怖い顔してた?

 振り向いてみると違う理由だという事がはっきりと分かった。

 ――いない。

「さっき、皆が走り出した時に……」

 逃げられた!!




※※※※※※※※※※※

:こうしてラジストはまた城の中をほっつき歩く事が出来ましたとさ。

 ……普段と違う視点て難しいな……。

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