アルが生まれた頃のこと

 昔々――とはいっても十数年前の事、大きな湖と広大なりんご畑を持つ国に、一人の女の子が生まれました。


「…それが俺?」

 尋ねるアルに頷いて、エルニドは話を続けていく。

「そうよ…貴女は御両親にとても愛されていたわ。もちろん、周囲の人達からもね」


 ――だけど、貴女が生まれた数ヶ月後……。


 エルニドは一度口を閉ざしてアルを見た。

 おそるおそる、それこそその一言を恐れているように


「《魔術師》が……現れたの」


 信じられない言葉を発した。


 人間に《魔法》は使えない。

 それは神や悪魔にしか許されない力。


「初めは貴女のお父様、つまり前代の王についているように思われました――しかし、立場が危うくなると今の王…ダキアの側に寝返ったのです」

「……そいつが、俺に呪いを…?」


 エルニドは厳しい表情のまま静かに頷いた。


※※※※※※※※※※


:過去に触れる話。ちょろっとネタバレ。

 『赤湖』の世界では魔女狩りがあったようです。

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