祭りに浮かれて


 広場はいつもに増して賑やかだつた。

「はい」

 目の前に出されたパンを、アルは黙って受け取った。

「れ? もしかして、あまり好きじゃない…?」

 ふるふると首を横に振り、「大丈夫」と言って一口食べた。

――辛い。

 ゆっくりエトランゼの方を見る。……普通に食べている。

 エトランゼが視線に気付いてアルを見た。

「どうしたの?」

「……これ、辛いんだけど……」

「あ。当たりが出たらもう一個!」

 軽い調子で言って、アルを店の方まで引っ張っていく。

「おじさん、当たり出たよ!」

 「ほら!」とアルがかじったパンを店主に見せると、店の親父は嬉しそうな顔をして並べられているパンから一つを取って渡した。

「おめでとう! ……っと。これは多分普通に食べられるはずだ」

 「普通に」…て……。

「何なんだこの店は……」

「パン屋だよ」

 店主は当然のように言う。

「今は収穫祭真っ最中だからね。祭の空気に乗っかって作ってみたんだ。

 おもしろいだろう」

 出来れば普通に食べられるものを作って欲しかった。




※※※※※※※※※※


:祭に浮かれてたのはパン屋のおじさんだけではなかったようで。むしろ楽しんでいたのは作者だったのかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る