安心していいよ

 『安心していいよ』




 ――ラジスト中古書店――


 今日も今日とて閑古鳥。



 ばたばたばた……ばんっ!!

「匿ってくれ!」

「……またですか」

 アルは追われる度にこの店へ逃げ込む。

 ここに来るまでの道程は複雑で、店の入口は随分入り組んだ所にある。

 店主は顔なじみ、店内は半分近くが本棚で埋まり、昼でも薄暗い。身を隠すにはちょうど良い場所だった。

「その様子だと、保安部隊のあの二人……かな」

「しつこいんだって。あいつら」

 二人分の足音が近付き、遠ざかっていく。


「――行ったみたいですよ?」

 窓から外の様子を窺っていたラジストが言うと、アルは肩から力を抜いた。

「ふー……いい加減諦めてくれないっかな……」

「じゃ、アル君はりんごを諦める?」

「……無理」

 アルは呪いをかけられている。「誰に」「何の目的で」かは分からないが、りんごを食べないと体中に傷が出て来るので苦労しているらしい。

「はい」

 ラジストがアルの前に差し出したのは、りんご。

 アルは何も言わず受け取り、軽く会釈した。

 りんごに噛り付こうとして、止められる。

「本が汚れるじゃないですか」

「だったらもう少し片付けろよ。曲がりなりにも本屋だろ」

 言い返しながらも、アルは素直に本の山から離れた。



  * * *



 相変わらずのやり取り。

 憎まれ口すら心地良いくらいで、相手が居なくなるなんて考えられない。

 考えたくもない。

 いつでも君の逃げ場になってあげるから――安心していいよ。







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