第2話 紙芝居師ハロルド
それから時が過ぎ、ハロルドは二十歳になった。
その頃になると、山の家にはたまに帰るだけになり、町に住むようになっていた。
ハロルドの異世界物語は人々から好まれ、遠くの国からわざわざ見に来る人もいるほど人気になった。総一郎がした失敗を生かし、ハロルドは人気紙芝居作家になっていた。
もちろん、ふつうの紙芝居ではない。
紙とペンだけで表現されることもあったが、俳優が出てきて劇になったり、魔法使いが魔法を使ったりしてできたエンターテインメントでもある。
夜になればランプや松明の明かりなども使い、かなり凝った演出をした。
人々はハロルドの紙芝居を楽しんだ。
居酒屋でも宿屋でも広場でもどこでも気軽にできたので、多くの人が観て面白がった。
それで生活できるようになった頃、国王がハロルドの紙芝居を観たいと言ってきた。ハロルドは城下町に呼ばれて行った。
そこで王に認められれば、地位も財産も得られる。うまくいけば、王家ご用達の作家になって生涯安泰かもしれない。
誰もがうらやむ美味しい話だった。
ハロルドは新しい物語を作ろうと思った。誰もが驚く盛大なエンターテインメントを打ち上げようとした。
彼はまず、王と話をすることから始めることにした。
まず王のことを知り、それから王に喜んでもらえる物語を作ろうと考えた。
王は34歳でこの国の王になってそれほど経っていなかったが、生まれながらの統治者であり、柔軟な考えの持ち主だった。
王はハロルドと喜んで会った。
彼はエンターテインメントに飢えていた。
そして、歯に衣着せぬハロルドの人柄を気に入り、頻繁に城に呼ぶようになった。
ハロルドも王のことが気に入った。
王と会い、王が何を求めているのかを知り、そして少しずつ物語はできていった。ある程度までできたところで他の人間にも見せてみたが上々の評判だった。
しかし、ハロルドはモヤモヤとした何かを感じた。
もしかしたら彼ならハロルドの望みを叶えてくれるかもしれない。
そんなことを思い、ハロルドはほとんど完成していた作品を王に見せるのはやめ、はじめから作り直した。出演が決まっていた役者からは落胆の声。新しくできた作品に出してくれとも言われたがハロルドは断った。
総一郎が住んでいた世界を元にした、ある愚かな王の話を作った。
ハロルドとして生きていた世界のタブーに触れる物語だった。
総一郎はその物語を作り、それを王に見せた。
人々が集まる広場で紙芝居を行った。
大きなキャンバスに絵を描き、その前でハロルド一人が語った。
演劇でも紙芝居でもない。ハロルドは声を大にして自分が感じていた不満をぶちまけた。たくさんの人々に見せるための絵も何枚も描いては破り捨てる。
見ていた人々は青ざめた。
はじめは王も面白がっていたが、彼もがっくりと肩を落とした。
紙芝居が終わっても、誰も何の反応もしなかった。
誰もが大失敗だと言った。
ハロルドの紙芝居を観るために、片田舎まで何度も足を運んでいた人さえも酷評した。
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