人間の王と魔物の王とインタビュアー

玄栖佳純

第1話 異世界転生

 田原総一郎は異世界にいた。

 科学よりも魔法が発展していて、王や騎士やモンスターや魔王がいる世界。そこの、のどかな中世ヨーロッパの田舎町のようなところに住んでいた。


 名前はハロルド・マーシャ。寡黙で勤勉な男で、その昔、日本のテレビ局で番組を作り、その司会をしていたとは思えない地味な男だった。


 それもそのはずで、彼には総一郎としての記憶がなかった。

 彼はハロルドとして山の中に住んでいた。


 人とは会わず、自然に溶け込み、体を動かして暮らしていた。

 大自然の中でたった一人で暮らす日々。


 不満は少ししかなかった。

 同じことを繰り返す日々だけど、生命の危機もないこともないが、満ち足りた気分は味わえた。誰とも比べず、自分の価値観だけで過ごす。

 不満を言えばバチが当たるような気がしていた。


 けれどハロルドは何か足りないような気がしていた。

 悪くはない。では何が足りないのだろう。


 それは焦りにも似た何か。


 ある日、ハロルドが総一郎としての記憶をよみがえらせる時がきた。

 18歳の誕生日。祝ってくれる人もなく、いつも通りに一日が終わろうとしていた。


「俺は田原総一朗だった」

 ハロルドは思い出した。ハロルドとして生まれ18年が過ぎ、成人したことが思い出すきっかけだった。


 総一郎はそうなるように、自分に暗示をかけていた。

 魔法が使えるこの世界だからこそできたこと。


 ただし、この異世界では日本など誰も知らないしテレビも芸能界もなかった。

 だから田原総一朗と言っても誰もわからない。


 ハロルドはいつも通り眠り、いつも通り夜明けと共に目覚める。

 でも、彼には総一朗としての記憶があった。


 いつも通りに食事をし、いつも通りに仕事をし、夕方になって仕事を終えるとハロルドは町へ行くようになった。ふらりと町へ行き、町の様子を見てふらりと山の中の家に帰ってきて眠る。


 少しの間、それを続けた。

 彼は町の様子と人の流れを見ていた。


 それを絵に描いてメモを付ける。 

 町中で描いていると、「画家なのか」と声をかける者も出てきた。


 話しかけられると彼は答えた。

 人と会うのは嫌っていない。


 言葉がハロルドの口からすらすら出てくる。


 町に通っているうちに、顔なじみもできた。

 痛い所を突く物言いもするため、彼を嫌う者も割といたが、それを面白がる者はそれ以上にいた。


 苦笑いをされながらもしだいに町になじみ、居酒屋に通うようになる。

 ハロルドは酒は飲まなかった。酒は飲まずに甘味を食した。


 彼は人と話すのは好きだった。

 そして、総一朗だった頃の記憶を元に、総一郎が住んでいた世界の話を面白おかしく語った。


 はじめのうちは聞いてもらえなかった。

 初めて聞く『日本』の話は、その世界の人々にとって荒唐無稽で、受け入れられなかった。


 だから総一郎はイラストを描いた。

 人々に通じるように、わかりやすくなるように。


 すると、人々はそれを喜んだ。総一郎は紙芝居のようにして語って聞かせた。

 その町の人々は、彼らにとっての異世界の物語を好むようになり、ハロルドに語らせた。


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