秋色のカミサマと歌姫

 白い石と清らかな水が創り出す聖なる空間。祭壇の上には太陽の光を反射させて輝く花の籠。中で眠るのは、国を守る《神様》。子守歌に包まれて、穏やかな寝息をたてている。

 光に満たされた広間の中央で子守歌を歌っていた少女は、小さなため息をつき、「おやすみなさい」と微笑んだ。

 光の神殿を暖かな陽が包み込む。高い天井の向こうから、鳥の羽ばたきが聞こえた。

 幾筋もの光が降り注ぐ神殿の中、一羽の大きな鳥が舞い降りた。

 実りの季節の色彩を持つ異質な存在。ああ、きっとこのヒトは、カミサマのトモダチなんだ。なんとなく、そう思った。

 大きな翼を纏う秋色のカミサマは少女の前にしゃがみ、目線の高さを合わせた。黒曜石の瞳に、唖然と座り込む少女の姿が映る。

 低く落ち着いた、しかし軽やかな声が紡ぎ出す言葉。

「君の歌が聞きたいな。巫女としてじゃなくて、君自身の、ね」

 それは初めての言葉。

 少女の目が大きく見開かれた。新緑の輝きはたまらず溢れ出し、少女は跳ねるように立ち上がった。

 降り注ぐ光に伸ばした指先から、地面を跳ねステップを踏む爪先まで、全身で感情を表現する。

 国一番の歌姫だと謳われた。神に捧げられる巫女になることは、とても名誉なことだと教え込まれていた。

 アペレース・シシア。とらわれのカナリアが初めて歌う個の歌。喜びの響きが光同様、広間に満ちる。

 幸せなひととき。

 終演の際に贈られた拍手に振り返ると、カミサマが目を覚ましていた。

 見回しても秋の彩りはどこにもなく、いつもと変わらない風景があるだけだった。

「……ねぇ、カミサマ。さっきね、カミサマのオトモダチが来てたんだよ」

「へぇ。誰だろうね。ボクのトモダチは、シシアだけだよ」

 カミサマはしゃなりと横たわって歌を乞う。

「さあ、歌って。ボクの歌姫」
















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