学園編
試験①
いつもと違う部屋、慣れないベッド、今までは無かった外から聞こえてくる活気のある声。
私は今王都の学園にある女子寮に来ている。明日は学園に入って最初の適性試験だ。今日はそのための準備をしている。
「以上が試験の説明になります。質問はありますか?」
「大丈夫だよ、ありがとね」
この部屋はお手伝いとしてついてきてくれたグレースと一緒に使う部屋だ。シュラもペットと言って連れてきたので三人で暮らすことになる。シュラは今ベッドにくるまって寝ている。ほんとにシュラは寝るのが好きだ。お母さんはこっちに来れないから一人でお留守番だ。もっとも、別れ際に変装して会いに来る準備をすると言っていたからずっと会えないわけではない。会えるのは嬉しいけどお母さんが学園に来るのは心配だ。お母さんの家族は昔お母さんを追放している、今でも見つかっていいことにはならないだろう。
「じゃあ明日は途中からはアレクシアと一緒に受けるんだね」
「そうですね、頑張ってください」
グレースの説明では試験は治癒・生産・戦闘の三つがあってその中から自分に合うものを選んで受ける事になる。その際、最低一つは受けなければならないが、それ以外にも受けたいものはいくつでも受けていいことになっている。受験者の得意分野と技術の高さを見るためらしい。
その中でアレクシアは治癒、私は生産をそれぞれうけて戦闘は一緒に受けることになる。私は戦いたくないが、お母さんの元を離れるからには自分の身を自分で守れるようになって欲しいと言われたので学園でも少しは戦えるようにこの試験を受けることになった。受けた試験の勉強や特訓を学園でやることになる。王国学園のカリキュラムは皆一緒というわけではなかった。
「それだはやるべきことは一通り終わりました。この後は試験の練習ですね」
「そうだね。シュラ! 起きて! 練習するよ」
「ん~、おはよう」
成績が良いと得することが多いらしいから頑張ろう。
「では、今から生産系の試験を始める。素材はこちらで用意したものでも持参したものでもいい、それぞれ得意なものを作るといい。事前に伝えてあったが作ったものの持ち込みでもよい」
一日たち試験が始まった。今は生産の試験に参加している。試験官は回復ポーション用の薬草や金属などを目の前に広げた。
だが、試験を受ける人たちはそれには目もくれず持参したものを提出する人ばかりだ。その場で失敗したらと思うと怖いから皆持参してくるだろうというグレースの予想通りだ。鍛冶師志望の人とかはその場じゃ間に合わないからしょうがないけど。その場で受ける人は素材を自分で用意できない貧乏人ばかりだと聞いた。
魔法が付与された剣とかは高い評価がもらえるらしい。あとポーションは等級の高さで評価が決まっている。いい服を着てる子が高い評価を得ているみたいだ。やっぱり家が裕福だと良い家庭教師を雇って学園に来る前に一定の技術を身に付けているらしい。
他の人が作ったものを買って出す人はいない。作った人を判別する魔道具があるからだ。不正の対策は万全みたいだ。
「次、アレクシア・レアンドル」
「はい」
私の番が回ってきた。試験官の前に出る。
「手に抱いている豹は何だ?」
「ペットです。後この子は猫です」
私はあれから二年たってシュラを抱けるようになった。それからはよく抱いている。私が肯定した瞬間、試験官の顔が歪んだ気がした。
「随分と余裕だな。それ以外には何も持っていないということはこの場で作るということか?」
「そうですね」
「ぷっ、はっはっは」
質問に答えると、今度は笑い出した。周りの子供たちも笑っている。聞こえてくる声は私を貧乏人だと見下して笑っていた。
「おい平民! ふざけるなよ!」
「はい?」
後ろから怒鳴り声がした。振り返ると高そうな服を着た男の子が私を睨んでいる。男の子は私を睨んだまま近づいてくる。
「貴様、試験をなめてるなら今すぐ帰れ」
「なめてませんよ」
「嘘をつけ! 素材も用意できない貧乏人が猫など抱えて試験を受けるだと? 遊んでいるとしか思えないな」
男の子の言葉にシュラが反応してとびかかろうとするが私は必死にシュラを抱きしめて止める。こんなところで問題を起こしたらグレースたちにも迷惑がかかる。
「早く試験を始めろ、お前に長く時間をかけるわけにはいかない」
「ふん!」
試験官が催促してきたから男の子もそれ以上なにも言わず下がっていった。シュラもまだ不服そうだが、ここで騒ぎになるのも良くないことが分かっているから大人しくしてくれた。
「では始めろ」
「はい」
私は並べられているものの中から木材を手に取った。
「はっ、そんな木材で何をする気だ。加工用の道具は無いぞ?」
「大丈夫です」
生産系のほとんどはポーションづくりや武器の生産の人で加工は金属が主だから木材用の道具は用意されていないみたいだ。ではなぜ木材が置いてあるのかと問いたい私には関係ないから良いけれど。
「やっぱ馬鹿にしてるじゃないか! ふざけるなよ!」
また男の子が叫んでるが今度は無視して錬金術を使う。私が得意なのは人形作りだから今回作るのも人形だ。
「できました」
「錬金術か? 少しはまともな術が使えるようだが人形を作ってどうするというのだ」
試験官の人は私の人形を見て馬鹿にしたような感じで言ってくる。でも私の人形はただの人形ではない。
―カタカタッ
「う、動いた? お前は闇の魔力の持ち主か!」
「はい。それで、試験はどうですか?」
「う、うむ。これなら高得点だな」
いい評価がもらえそうでよかった。あんまり悪くてアレクシアの前で格好悪いとこ見せたくないしな。
「おい、お前!」
「なんですか?」
またさっきの男の子が絡んできた。さっきよりも怒っているみたいだ。
「なんでその力の事を黙っていた! 俺を馬鹿にしてそんなに楽しいか!」
「はい?」
男の子は私に詰め寄りそうまくしたてた。隠しているつもりのない私はどう返せばいいか分からない。現に隠さず今見せたわけだし。
「え、えっと。隠してませんが……」
「お前この後の戦闘試験は出るのか?」
「は、はい」
私が返事をしようとするとまた違う話をしてきた。本当に人の話を聞かない子だ。
「なら試験でお前をコテンパンにしてやる! 俺の名前はキアン! ウォルスス・キアンだ、覚えとけ!」
それだけ言って男の子は去って行ってしまった。まだ関わるのか、嫌だな。
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