キャンプ

 しばらく歩いて、私達は一日目のキャンプ予定地である川沿いに着いた。グレースが持っていた荷物を下ろし、テントの設営を始める。しかし、ここで問題が発生した。

グレースが背負っていたテントは非自立式のテントで、ペグを打ち込んで固定するものだったが、ペグを差し込んでもペグが短くてすぐ抜けてしまうのだ。


「どうしましょうヴァレリー様、丁度良い場所がありません」

「ボクたち今日どうするの?」

「困ったね、この可能性があることを忘れていた。アタシの落ち度だね」


 どうやら皆打つ手がないようだ。このままだと野宿をしなければならなくなる。


「あっ、破けちゃった」


 グレースとアレクシアがペグを打ち込んでは引っ張っていたところ木に引っ掛けてテントが破けてしまった。こうなってはもうどうしようもない。


「ごめんなさい」

「いえ、わたくしも不注意でした。アクレシア様だけのせいではございません」


 こうなったらもう野宿するしかない。皆どうしようか考えているが解決策が浮かばない。いや、一つだけあるではないか。


「お母さん、私に錬金術を教えて」

「そうか、無いなら作ってしまえばいいというわけだな。ついでに錬金術も身に着けようというわけか」

「うん、よろしく」


 そう、無いなら作ればいいのだ。ついでに私のためにもなる。使おうとしていたテントも古かったし新しいテントで寝られるのも嬉しい。というかペグなしで立つ自立式のテント作ってしまえば楽だろう。

 ということでアレクシアとエマに他の準備を任せて、ヴァレリーさんによる錬金術の勉強が始まった。と言っても昨日の夜や今日の道中でも話は聞いていたので後はやってみるだけだ。まずお手本としてヴァレリーさんがペグを何本か作った。


「こんな感じだね、できるかい?」

「やってみる」


 お手本にならって私もペグを作る。錬金術で物を作るときは作るものをしっかりイメージしなければならないが、今は同じものが目の前にあるため問題ない。


「こんな感じでいい?」

「よし、完璧だ。エマは才能があるな」

「ありがと」

「つぎはテントを作るか、これはアタシがやるか?」

「テントも私が作る。見本なしでやってみたい」

「分かった、やってみな」


 今度はテントだ、日本にいた頃二回だけだがキャンプに行ったことがある。その時に使ったドーム型のテントを思い出して目の前に再現した。


「いい感じだね、この形のテントは見たことが無いが問題なく使えそうだ」

「なら良かった」


 中もしっかり確認し、ヴァレリーさんも満足なようなので安心した。


「ところでエマ」

「なに?」

「組み立てた状態で作ったのはいいが設営しようとした場所はここじゃないぞ? どうやって向こうまで運ぶのだ? ここからだとグレースが焚火をしているところを通らなければならないが」


…………。


「あっ」


 組み立て直さなければ。



 破れたテントの片づけをグレースに任せて移動していたことを考えずにテントを作ったことを後悔しつつ、テントを組み立て直した。

 その後、川の水を使って簡単なお風呂を作り体の汚れを落とした私は夕飯の準備をグレースさんとしていた。


「エマ様、本日は何を作る予定でしょうか」

「クリームシチューを作ろうかな」


 村を出る時にアレクシアがお父さんからたくさんの野菜やミルクなどを持たせられたため、それとウサギの肉を使った料理を考えた結果シチューがいいと思った。鹿肉も使うから肉が多めになるが仕方ない。

 

「シチューは作るのに何時間も要しますが」

「普通に作るとね、でも圧力鍋を錬金術で作れば数十分で終わるから」

「圧力鍋とは何ですか?」


 圧力鍋は空気や汁が逃げないように密封してから火を通すことで大気圧より大きい圧力を加えるものだ。日本にいた頃はよく料理をしたので大変お世話になった。鍋の説明を聞いたグレースはとても興味深そうにしていた。


「この世界には無いものですね。異世界の知識ですか。勉強になります」

「こっちの世界だと魔法で大体何とかしそうだもんね」


 実際ドライヤーの説明をヴァレリーさんにしたら魔法で再現していたし。

 そんな話をしつつシチューを作っていく。鍋を作るついでに包丁やまな板などの調理器具も作り材料を切っていく。私が野菜担当でグレースは肉担当だ。


「他には異世界にはどのような技術があるのでしょうか」

「う~ん。こっちの世界だと見ないけど私が居たとこは電気をいろんなことに使っていたよ」

「電気、雷の力ですか?」

「うん、電気を使ってものを温めたり逆に冷やしたり、遠くの人と会話したり」

「遠くとはどのくらいの距離でしょうか」

「どこでも、電波が届く限りはね」

「それは凄いですね、戦争や商業、あらゆるものの常識が覆ります」

「そっか、戦争があるんだね」

「はい、王国もしていますよ」


 この世界にも戦争は絶えないらしい。元の世界でも日本は無かったけど戦争している国はあった。どの世界でも争いは絶えないらしい。しかも今いる国も戦争しているらしい。アレクシアがいた村は平和そうだったけど場所が変わったらあんなにのんびりとした生活は無いのだろうか。

 それともう一つ、会話していて気になったことがある。


「グレースは異世界の話を聞いてもあんまり驚いたりしないね、なんで?」

「これでも驚いてはいるのですが。わたくしを作ったリディアーヌ様もわたくしは感情を表に出すのが苦手だと仰っていました。どこかで失敗したのかもしれないと」


 グレースを見ていてずっと気になっていたことだった。彼女には感情が無いのかもしれないと思って聞いたけれど違った。感情はあるけどそれを表に出すことが出来ないらしい。メイドとしては優秀なのかもしれないけど、感情の共有ができないことで誤解を生むこともあるだろう。それに寂しくもあるのではないだろうか。どうにかできないものかと考えてしまう。


「エマ様、これで完成としてよいでしょうか」

「見せて。うん、いいんじゃない?」


 考え込んでいるうちにシチューができたようだ。アレクシアとヴァレリーを呼んで夕飯にする。

 シチューは皆美味しいと言って喜んでくれた。アレクシアはおかわりまでしていた、笑顔で食べてくれるから私も嬉しかった。

 シチューを食べ終わって私とヴァレリーさんは食器の片付けをしていた。ヴァレリーさん一人でやるといったが相談したいことがあるからついでに手伝うことにしたのだ。


「お母さん、私元々いた世界の道具をこっちで再現するのが魔法の使い道になるかも。こっちにあるものだと生活が少し不自由だと思ったのが理由」


 圧力鍋すら無いのだ。他にも元の世界にはあってこの世界に無いものは多いだろう。ドライヤーも無いのも不便だと思う。私だって現代っ子だ。


「この前の質問の答えがそれだね。分かった、良いんじゃないか? 生活が楽になるならアタシも有難いしねえ。でも作る前にできる限りアタシに相談してくれよ。さっき言っていた遠くの人と会話するとかいうものを作って戦争に利用されると面倒だからねえ」

「さっきの話聞いてたんだ。私達の分しか作らないし大丈夫じゃない?」

「学園にいる時にエマが誘拐されたらどうするのさ、無理やり作らされる可能性もあるし危険だよ」

「分かった、気を付ける」


 そんなこともあるのかと怖くなった。これから作ろうと思ったものはヴァレリーさんに相談してから作るとしよう。私も危ないことには巻き込まれたくない。


「エマ~終わった? ボクと一緒に寝よ~よ」

「もう寝るの? ちょっと待って準備するから」


 アレクシアは大分眠そうだ、私はまだ大丈夫だがやることもないし一緒に寝よう。せっかく誘ってくれたし。


「ふふ……幼女と幼女の添い寝。そしてアタシもその横で寝られる。幸せだねえ♪」


 私はロリコンの独り言を無視してアレクシアと一緒にテントに入った。余計眠くなくなったけど頑張って寝よう。


「エマ、ぎゅ~」


アレクシアが寝ぼけたまま抱き着いてきた、あったかい。


「おやすみ、アレクシア」


しばらくして眠くなってきた私は既に寝ているアレクシアに挨拶して眠りについた。

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