精霊の里

狩り

 私とヴァレリーさん、アレクシアとグレースは精霊の里を目指して旅立った。


「お母さん、里から出発してどれくらい経った?」

「えっと、そろそろ五時間経つな。どうかしたか?」

「これ、いつ抜けるの?」


 私たちは今森の中にある辛うじて道と言えるようなところを進んでいた。里を出てからずっと景色が変わらない。


「精霊の里は人が住む場所とはかなり離れた場所にあるからねえ。里につくまでこんな感じだろうし、二日はキャンプするからな」

「キャンプ!? ボク、キャンプ初めて! 狩りはまかせて、お父さんにやり方は教えてもらってるから」


 アレクシアはキャンプと聞いて少し疲れ気味のように見えた顔を笑顔にした。ずっと村から出なかったらしいから初めてのキャンプが楽しみなのだろう。

 こっちの世界に来る前のキャンプではキャンプ飯や温泉を楽しんでいたがこっちでは狩りから楽しむ。海外では狩りをするキャンプがあると聞いたことが有るがまさか自分が体験するとは思わなかった。


「そうか、じゃあキャンプしようと思っている川に着くまでの道で見かけた動物はアタシとアレクシアで狩っていこう。魔法を教えるから魔法を使って狩りをしてみようか。」

「魔法を使うの? 頑張る!」


 魔法を学ぶことが決まった後、私とアレクシアはヴァレリーさんに魔法を何に使うかについて問われていた。悪いことに使おうとしているなら教えられないし、そうじゃなくても目的によって教えることが変わるらしい。

 アレクシアは家の手伝いが出来るようにいろんなことができるようになりたいと言っていた。狩りもその一つだ。私はまだこの世界でやりたいことがないため答えられなかったが、錬金術が少し気になっていることを話すと教えてくれることになった。


「あそこに鹿がいるね。じゃあ風の魔法からいこうか。風の刃を作ってみよう。手本を見せるから見てな」

「は~い」


 どうやらアレクシアの練習が始まるらしい、ヴァレリーさんが鹿の首を吹っ飛ばしている。

 私は今まで動物の首が飛ぶ瞬間など見たことが無いので少し気分が悪くなってふらついた。それに気付いたグレースが私の体を支えてくれる。


「大丈夫ですか」

「うん、ありがとう」

「昨日の話から推測するにこういう場面を見るのは初めてでしょうし、無理なさらず少し休んでください」


 アクレシアの魔法の練習と鹿の血抜きや解体のために一端止まることになったため、私を休ませてくれた。近くにあった木に寄り添い息をつく。

 狩りとはどんなものかなんとなく分かっていたつもりだが、実際に見てみると大分きつい。目を閉じるとさっき見た光景がフレッシュバックしてくる。

 今まで肉を食べる時に何も考えずに食べていたがこれから肉を食べる時に今日のことを思い出しそうだ。


「エマ見て~ ウサギ取れたよ!」

「う、うん」


 アレクシアが血を垂らしたウサギを手にもって笑顔で近づいてくる。それを見て私はまた少し気持ち悪くなる。


「エマ、旅をするならこういうことにも慣れる必要がある。でもどうしてもというならアタシが全部見えないところでやってあげてもいい。エマはどうしたい?」

「ううん、大丈夫。頑張って慣れるから」


 ただでさえヴァレリーさんにはお世話になりっぱなしだ。こんなことまで迷惑をかけるわけにはいかない。それに、慣れなかったら肉を食べることすらできなくなりそうだ。


「エマは狩りとかしたことないの?」

「うん、アレクシアは慣れててすごいね」

「うん。ボクはずっとお父さんが狩りしてるところを見てたし、お手伝いをしたこともあるしね」

「そっか、私も何回か体験してみれば慣れるかな」

「きっと慣れるよ、まずは解体やってみよ。僕がそばにいてあげるから。いこ」


 そう言ってアレクシアは私の手を握って鹿の元へと連れていく。そこではヴァレリーさんが鹿の解体をしていた。


「師匠、ボクとエマもやるよ」

「ふむ、分かった。二人にはアレクシアがとったウサギのほうを任せるよ」

「まかせて!」


 ウサギは片足を紐で釣り、逆立ちしているような状態にぶら下がっている。


「足から毛皮を剥いていくよ」

「分かった」


 私とアレクシアはウサギに触れる。まだ少し温かい。アレクシアに教わりながらズルズルと剥いていく、結構簡単に剥けていく。


「お腹や頭はナイフを入れないと毛皮が破れるからね、そこはボクがやるよ」

「うん、お願い」


 アレクシアは手際よく毛皮を剝いでいく、その中でも難しいところは気を使ってやってくれる。緊張していたけどアレクシアが優しくしてくれるから少し落ち着いてきた。


「次、腸とるよ」

「うわっ、色々出てくるね」


 胃袋や腸かに食べたものが色々詰まっていたのが出てきた。ここまでくると覚悟はできてたので大きなダメージは無い。


「よし、取れたね。後は血抜きと分解して終わりだよ」

「そっか、ありがとね」

「うん、大丈夫そうでよかった。もう慣れた?」

「少しは慣れたかな、お礼にご飯は私が作るから。楽しみにしててね」

「エマが料理するの? 楽しみ!」


 今回のお礼にアレクシア達にはご馳走をつくってあげよう。


「そっちも終わったか それじゃあ出発するよ。エマも大丈夫そうだね」

「もう大丈夫だよ。お母さん、晩御飯は私が作るからね」

「そうか、アタシも手伝うかい?」

「お願い、ちょっと手伝ってほしいことがあるから」

「分かった、もう少しで川の近くにつくからそこでキャンプしようか」


 キャンプまでにレシピを考えておかないと。鹿とウサギを料理に使ったことが無いから、そこは手伝ってもらおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る