二日目
「う……んん……暑っつい」
私は暑苦しさに目を覚ました。久々のキャンプだったけど思ったより深く寝られたと思う、途中で起きることもなかったし。
「むにゅう……エマぁ」
「よしよし、二人とも可愛いねえ」
暑苦しさの原因が分かった、前からアクレシアが抱きついてきている。昨日寝た時の体制と全く変わらない格好だ、寝ている間はずっとこの体制だったのだろうか。だとしたらある意味寝相が良すぎるだろう。
そしてもう一人、ヴァレリーさんが私の後ろからアレクシアと私を抱き込んでいる。ついでに私の頭を撫でている、こっちは起きているっぽい。
「おはよう、母さん」
「起きたね。おはよう、エマ」
私が起きたことを伝えたらヴァレリーさんはどいてくれた。正直撫で続けられると思っていたので少し驚いた。
私は起き上がろうと思ってアレクシアの腕をほどいた。足もからまっていたので起こさないようにゆっくりと起き上がる。
「エマ?」
「ごめん、起こしちゃった?」
失敗した。アレクシアを起こしてしまった。結構注意したけれど、そう上手くはいかなかった。
「えへへ……エマ、おはよう。ちゅっ」
「むっ……」
アレクシアが笑顔で私にキスしてきた。私も寝起きでぼーっとしていたため、かわす暇もなく受けてしまった。突然のことに反応できない。驚いて固まっている内にアレクシアは唇を離した。実際は数秒の出来事だろうが、すごく長い時間に感じた。
「はぁ……幼女同士のキス、どちゃくそてぇてぇ……」
ロリコンはしっかりロリコンを発揮している。目が危ない、目が。
唇を離したアレクシアの顔が急に赤くなった。
「あっ、ボク……」
「アレクシア?」
アレクシアは顔を赤くしたままテントから出ていった。どうしたのだろう。キスが恥ずかしかったのだろうか。私も恥ずかしかったけど、母を除いたら初めてだし。
「エマ、アレクシアを追ってやりな。早く」
「あ、うん」
ヴァレリーさんに言われたのでテントから出てアレクシアを探した。アレクシアは川の近くでうずくまっていた。
「アレクシア、どうしたの?」
「えっとね、ボク嬉しかったんだ。ボクの村には同い年の子がいなかったから……それでね、エマに会えた時すっごく嬉しかったんだ。初めて友達ができたのが嬉しくてキスしちゃった、ごめんね」
そういえばあの村に子供はアレクシアしか居なかったような気がする。一日しかいなかったからちゃんと見たわけでは無いけど。
同年代の子が居ないのは寂しいと思う、ある意味独りぼっちみたいなものだろう。
「ううん、大丈夫だよ。私もこの世界には同い年の友達いないしね。私もアレクシアと友達になれたのは嬉しかったよ」
「この世界?」
「うん、私ね、他の世界から来たんだ。信じられないかもしれないけどね」
「信じるよ。魔女さんに子供がいるなんて話聞いたことなかったからね。何かあるってお父さんも言ってたから」
「あはは……やっぱ急にこんな年の子供がいるって言われても信じられないよね」
「じゃあエマにとってもボクが最初の友達なんだね。嬉しいな」
「そうだよ、これからもよろしくね」
「うん! ずっと友達でいようね!」
アレクシアとはただの友達じゃなくて親友になれそうだ。ここまで正直に自分のことを話してくれたし私の話もちゃんと聞いてくれた。初めてできた友達だから私ももっと仲良くなりたいし、ずっと一緒に居たいと思う。
「じゃあ、戻ろっか」
「えっと、その前に……」
「どうしたの?」
「おはようのちゅう、これからもしてもいい?」
アレクシアがまた顔を赤くして言ってくる。すごくかわいい。
「いいよ、しよっか」
「いいの!? やったー!」
アレクシアが飛び跳ねて喜んでいる。それを見ていると私まで嬉しくなってくる。飛び跳ねていたアレクシアが急に止まってこっちに近づいてきた。
「大好き……ちゅっ」
アレクシアがまた私にキスしてきた。やばい、かわいい、惚れそう。私は十九歳だ、このままでは私もロリコンになる。ヴァレリーさんと同族になってしまう。
私達はお互いに照れながらテントまで戻った。
「お帰りなさいませ。エマ様、アレクシア様、朝食の用意ができています」
「ありがとうグレース 頂きます」
「いただきまーす!」
朝食は昨日の残りのシチューだ。私たちが話している間に温めてくれていた。アレクシアが私の隣にくっついて笑顔でシチューを食べているのを見て私も嬉しくなる。
朝食が終わるとまた私とヴァレリーさんで片付けをしていた。作った鍋を分解する練習も含めている。
「アレクシアとの話は出来たようだね、幼女同士のイチャイチャは至福だったよ」
また話を聞かれていたようだ。どうやって聞いているのだろうか。
「アレクシアの前でロリコン発揮しないでよ。やったら怒るから」
「じゃあ代わりにエマにやろうかねえ、着て欲しい服はまだまだあるからねえ」
「帰ってからね、アレクシアが居ない時に」
「分かったよ、まずはゴスロリからだね」
仕方がない、アレクシアは私が守る。何かを得るには多少の犠牲は仕方のないことだ。諦めよう。そう、諦めるしかないのだ。……ゴスロリ着る覚悟をしなければ。
「準備できたね、じゃあ行くよ」
「は~い!」
荷物の整理を終えた私たちは精霊の里に向けて歩き出した。今日は川沿いに沿って上流まで歩く滝が流れている場所まで行き、滝の裏にある短い洞窟を抜けた先が目的地の精霊の里だ。
道中危ない道を通らなければならないため今日はゆっくり進んで滝のところに着いたらそこでキャンプをする予定だ。
アレクシアと仲良くなった私は手をつないで一緒に歩いていく。後ろでヴァレリーさんがにやついているのが分かるが無視する。途中、危ない道や高い段差はヴァレリーさんやグレースに抱っこしてもらって乗り越えた。その時も私はアレクシアを守るためヴァレリーさんに抱っこしてもらった。頬っぺたぷにぷにされた。
それ以外は何もなく、平和な時間が過ぎていたが、
「あれは、豹?」
「怪我をしていますね」
そこにはスラっとしていて足が長く、人間でいうモデルのような優雅な雰囲気が感じられるような豹が血を流して横たわっていた。普段なら可愛いというよりは美しいという表現が似合う凛々しい印象をもちそうな顔つきだが、その顔は何かに怒っているかのような顔でとても怖い。豹はこちらに気付いたようで、ゆっくりと顔を向け
にゃ~ん
「にゃんこ!」
「え? 猫?」
「そうですねエマ様、あれは猫のようです」
なんと、豹だと思っていたこの動物は猫だった。
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