出会い

「うおおおおおっ! 幼女っ! 幼女だっっ!!」

「はい?」


 いきなりのことに驚いたが、興奮しているお姉さんを見て私は逆に少し冷静になる。だが、目の前の女性の叫んでいることが理解できない。私は現在19歳だ、ギリギリ成人ではないけれど、外見は大人の女性と言っていいはずだ。

 とりあえず、目の前の女性が興奮して鼻息を荒くしていることに恐怖を覚えた私は距離をとるために数歩、後ずさる。


おかしい、彼女との距離がほとんど離れない。不思議に思った私は周囲を見回した後、自分の体を見下ろす。


「あれ? ちっちゃい?」


 そこには、見覚えのない自分の体にしてはだいぶ小さい手や足が見えた。しかし、それらは自分の体から生えている。しかも、左手の人差し指にはついさっきはめた指輪がはめられている。そういえば、さっきから少し喋りづらい、ということは、つまり……。


「わたし、わかがえった?」


 簡単には信じられない、というかこれは年齢的に若返るといより幼児退行だ。そういえば少し喋りずらい。

 ありえないことの連続に頭が混乱する。さっき目の前の人が言ったことは本当の事だった。


「その指輪は……、 嬢ちゃん、その左手の指輪、アタシのこれと同じものかい?」


 さきほどまで興奮していた女性は、私の指輪を見て落ち着いたようで私に左手を見せながら質問してきた。

 その人差し指には私がはめているものと全く同じ指輪がはめられていた。


「たぶん、そうです」

「そうかい、恐らくだが嬢ちゃんはこの指輪によって召喚されちまったようだ。悪かったね、アタシが責任を持って送り届けるから家のある国と住んでいた村の名前を教えてくれ」


 召喚? 何を言っているのだろうこの人は。そういうのは本とかゲームの話だろう。でもこの状況を見ると召喚されたとしか言いようがない。とりあえずこの人の話を信じてみることにする。

 しかも、この人は私を家まで送ってくれるらしい。

 さっきまでは怖かったけれど落ち着いてからは親切そうだし、少し信用してお言葉に甘えてみよう。


「にほんの、しずおかけん、です」

「シズオカケン? ニホン? 知らない場所だね。 嬢ちゃん、ここの地図は読めるかい? 大体どのあたりかわかるといいのだが」


 どうやらこの人は日本を知らないらしい。

 じゃあなぜ日本語が通じるのかと思いつつ壁に貼られた地図を見る。だが、その地図は全く見覚えのないものだった。


「にほんが、ないです。わたし、こんなちず、しりません」

「読めるけど分からない……、 嬢ちゃん、もしかして異世界の住人かい?」

「いせかい? あるんですか? そんなもの」

「ああ、この世界には稀にほかの世界から人がやってくる。確か、少し前にもトウキョウという都市からこの世界に来たものがいたはずだ」


 東京が異世界ということは、私は異世界に来たということだろう。信じられないが、とりあえず受け入れるしかない。


「とうきょうは、わたしがすんでいるくにに、あります」

「そうかい、じゃあ異世界人で確定だろうね。嬢ちゃん、名前は?」

「くどう えま、です」

「エマか、可愛い名前だな。アタシはヴァレリー、ヴァレリー・レアンドルだ。エマ、よかったらアタシの家に来ないかい? 今のままでは住むところも無いだろう」


 ヴァレリーさんは私を家にあげてくれるらしい。というかここはヴァレリーさんの家ではなかったのか。

 ここで断っても一人で生きる術もないし、ここは甘えるとしよう。優しそうだし、多分ついて行っても大丈夫だろう。


「ヴァレリーさん、じゃあ、おねがいします」

「ああ、分かった。じゃあアタシの家に向かおうか。 ぐへへ……、幼女がアタシの家に♪」


 前言撤回。この人ちょっとやばい、多分ロリコンって呼ばれる人だ、注意しないといけない。とりあえず中身の私が19歳だということを伝えれば少しは落ち着くだろうか。

 私は部屋を出ようとするヴァレリーさんを追いかける。


「きゃっ!」


 バタン!!

 私は小さくなったことで床までついた服を踏んで転んでしまった。


「いったぁ……。」

「エマ!? 大丈夫かい!?」

「はい、だいじょうぶです」

「怪我はないようだね、その服のまま歩くのは危ない、アタシが抱っこしてあげよう。 よっと、 ふふ、小さい、可愛いね、エマは」


 あっという間に抱き上げられてしまった。口元がすごくにやついている。まずい、本当にこの人について行っていいのだろうか。

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