チャプター7

◆廃墟・住宅地

キヤズナ「ヒューッ……ヒューッ……」


キヤズナ「ごぼっ!」


キヤズナ(駄目だ……血が溢れて、呼吸ができねえ)


キヤズナ(クソッタレが。"彼方"で"彼方"の武器が通じねェなんて……そんな馬鹿な話があるわけねェだろ……)


白い少年「……」


◆路上・彼方


(車両走行音)


(唸り声・異形)


(銃撃音2)


ダリー「こいつら数が増えてきてないか!? 急がなきゃなんねーのに……」


ルメリー「シェナ! 間に合ったとしてキヤズナをどうする!? 治療なんか出来るやついねーだろうが!」


シェナ「いいえ、います!」


ルメリー「……生術ができる奴なんていないだろ! ダリーがそうなのかよ!」


シェナ「違いますよ、あなたです! ルメリーさん!」


ルメリー「な……なんでだよ! そんなわけねェだろ!」


シェナ「――ルメリーさん。あなたはいつもロムゾさん達の授業から逃げ回っていましたけど、一人になってから詞術を勉強していましたよね。それも攻撃の術じゃなく、ネフトさんやサイアノプさんのような……いえ。森人エルフのような生術を!」


ルメリー「てめッ……」


シェナ「ルメリーさんが隠しておきたいなら、私もできれば隠しておくつもりでしたけど……! あっ右曲がりますね! ……どうして勉強する気はあるのに、"最初の一行"の皆を避けてたんですか!」


ルメリー「知るか! なんなんだシェナお前! 余計なお世話なんだよ! しかも今はそんな話をしている場合じゃねェだろうが!」


シェナ「そうですかね……! でも、聞く人が少ない時に聞いた方がいいと思いましたので! ダリーさんも秘密にできますよね!?」


ダリー「え!? あ、ああ、そうかな?」


シェナ「……ルメリーさん。まだ気にしているんですか?」


ルメリー「……」


ルメリー「……あー、そうだよ。面倒くせェな。ずっと、気まずいんだよ……別の分岐だろうとさ……あたしのせいでロムゾは……死んだんだろ」


ルメリー「バカみたいに、攻撃の詞術しかやってこなかったからだ。普通の……あたしがバカにしてた、他の普通の森人エルフみたいに生術が使えれば、どんなによかっただろうなって……」


シェナ「すごく、いいことじゃないですか。ルメリーさんはちゃんとできますよ」


ルメリー「最悪だよ。最悪」


ダリー「ルメリーさん。俺からも頼む。キヤズナの婆さんを治療してくれ」


ダリー「あの婆さんは本当にめちゃくちゃで、俺も暴力振るわれてばかりだけどさ。それでも、こんなところで死んでいい人じゃねえ」


ダリー「俺みたいな普通のやつが頭下げても、意味ないかもしれねーけどさ」


ルメリー「普通……か。普通ってなんだ」


ルメリー「なあナナコ! 普通って何なんだろうな!?」


ナナコ「……ルメリーさん……」


ルメリー「あたしはさ。生まれた時から他のどんなやつとも違った。お前は呪いの話をしてたけど、それこそ呪いの子だとかなんとか言われまくって育ったよ! けがれたのルメリー! ヒャハハハハ! 二つ目の名まで最悪だろ!」


ルメリー「それなのに……今更自分から異端ぶって他人を死なせちゃ、世話ねェよな」


シェナ「……! はい!」


ダリー「悪いが、明滅境魔フリッカーの数がそろそろヤバい! クウロも抜けたってのに、こっちの手が足りなくなるぞ!」


ルメリー「……見くびりやがって。手が足りないなんてことは一生ねェんだよ! この"最初の一行"の! けがれたのルメリー様にはな!」


ナナコ(おそろしいものが……どんどん、湧き出してくる)


ナナコ(それは……私がずっと不安だからだ。ルメリーさんみたいに、克服する強さを持つことなんて出来ない……)


ナナコ(私のことを分かってくれる人は、もう……)


【戦闘:たたりがみ×2 首斬りライダー×4】


◆路上・彼方


(車両走行音)


シンジ「あれだけやって生存者なしとはな。無駄足すぎた」


クウロ「いいや。これは重要な示唆だ。……明滅境魔フリッカーに殺されたような死体やその痕跡すら見つからなかったのは異常だ。ナナコの話が正しいなら、どこかに連れて行くような種類もいるらしいが、全てがそうであるはずもない……」


シンジ「ここは最初から――ナナコ一人だけの虚界だったのか」


クウロ「しかも彼女や、彼女の自宅は危害を加えられていない。俺達のような外部の者には容赦なく攻撃するのにも関わらず」


シンジ「だが魔王ではない。きみが嘘を言っていないのならの話だが」


キュネー「まだクウロのこと疑うの!」


クウロ「答えは最初と同じだ。信じてもらうしかない」


シンジ「では、ナナコのほうはどうだ? 生存者が一人だけなら、ぼくらの持っている手がかりは彼女自身の供述しかない」


クウロ「……俺達に語った内容は、少なくともナナコの中では本当のことだ。だが一点、引っかかった部分がある」


――私の目のことを打ち明けることができたのは二人……しかいませんでした。


クウロ「『打ち明けることができたのは、二人しかいませんでした』。これ自体は嘘ではないが、しかし含みがある声色だった。どう表現すべきか迷っているような」


シンジ「『二人』という単位では言い表せない存在だった。犬や猫、あるいはぬいぐるみなどの物品」


クウロ「それならば『二人』から除くかどうかを迷うとしても、表現に迷いはしない。『一匹』や『一つ』と表現すればいいことは誰にでも分かる」


シンジ「『二人』のうち、死者を含めるべきかどうかを迷った。実際、彼女の事情を知る者のうち一人は死亡している」


クウロ「違う。そこで迷うならば、『二人』と言った後ではなく、言う前に間が開く。俺の推理では、ナナコが言おうとしたのは『二人』と『一人』だ」


キュネー「ええっ!? そんな数え方しないよ!」


シンジ「そうだ。つまり『一人』の方は、『一人』に数えてよいものどうかを迷う存在だった。だから『三人』とは咄嗟に言えなかった」


クウロ「明滅境魔フリッカーは、実在も、非実在も不確かな存在だ。それがナナコの幻視と全く同じ性質を持っているのだとしたら。彼女が見ていた世界の中に、その『一人』が本当はいたとしたら――」


クウロ「魔王はそっちだ」


◆廃墟・住宅地


シェナ「ま、間に合ったでしょうか……?」


ダリー「局長殿のあの運転で間に合わなかったら、この世の誰も間に合わねーな」


キヤズナ「……」


ルメリー「婆さんが倒れてる! 背中を刺されてんのか……!」


ルメリー「【ルメリーよりキヤズナへr u m e y r y i o k y y a s u n n a 黄金の葉 s a m u t e s m u h a 蛇の腑 n e k s e n t e s 深く二十と八 o s m a 20 t e s 8 ……】」


シェナ「手応えはどうですか? ルメリーさん」


ルメリー「微妙だ。そもそも少し知り合いってだけだしな、くそ……! 大出血だけギリギリ止めて、あとは専門の医師を呼んでやってもらうしかねえ」


ダリー「そもそも誰がやったんだ、こんな真似……! 婆さんがそこらの野盗や獣族に遅れを取るはずがねえ……」


ナナコ「……! ダリーさん、伏せて!」


ダリー「は?」


(斬撃音1)


白い少年「また銃を持ってる……物騒だなあ」


ダリー「……おい、こいつッ! どこから湧いて出やがった!?」


シェナ(どうして……こんなに虚界から離れているのに明滅境魔フリッカーが……!)


ルメリー「今生術を止めたら婆さんが死ぬぞ! どうすんだ!」


ナナコ「……祐貴……」


白い少年「ここは危ないよ。家に戻ろう。


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