チャプター4
◆屋内・彼方
ルメリー「頭の中から出てくる
ナナコ「……想像した通りの、とは少し……違って。これは私でも全然……制御のできないことで……想像したくない、と思ったもののほうが近いかもしれません。でも、私には……ずっと、見えてて……」
ダリー「おい局長殿! こいつの言うことを信じるのか? もしかしたらとっくに発狂してるかもしれない。こういう状況に放り出されてたら無理もないけどよ」
シェナ「まだ、信じるとは言い切れません。けれど話が本当なら、
シェナ「ナナコさん。勇気を出して話してくれて、ありがとうございます。ナナコさんは先程、あんなものが見えるのは普通じゃない、って言いましたよね。すぐに本当のことを言い出せなかったのは、怖かったからですか?」
ナナコ「……はい。けれど、多分、怖かったのは……シェナさん達のことじゃなくて。普通の人が、怖かったんです。普通の人に……こんなものを見てるって言ったら。気が狂ってるって思われるんじゃないかって……」
ナナコ「だって、本当に、幻覚でしかなかったんです。見えてない人には……私の見ている世界を、信じられるわけがないから……」
シェナ「ナナコさん、その話」
シェナ「めちゃくちゃよく分かります」
ナナコ「!?」
ダリー「そりゃ局長殿は変人としての年季が違うからな」
シェナ「ナナコさんには、空間の歪みって計算できたりしますか? 見ただけで、視界にあるものの正確な長さや奥行きが分かるみたいなことはありませんか? 虚界内で物体を観察すると、輪郭に微小な振動がある……って話は分かります?」
ナナコ「わ、分かるわけないです」
シェナ「うーん、やっぱりそうですよね……。だから私もある意味、ナナコさんと近い境遇にいたと思います。私の場合は計測すれば正しく証明できることばかりでしたから、ナナコさんよりだいぶ気は楽だったかもしれませんけど」
ルメリー「ヒャハハハハ! この部隊、ダリー以外は異端しかいねーもんな。キヤズナの婆さんは本気で街ごと吹っ飛ばしそうだしよ」
ナナコ「そ、そう思ったわけじゃなくて……」
キヤズナ「アタシはお前のオドオドしてる態度が気に食わないね。周りの連中の目を気にして過ごすくらいなら、片端からブン殴って黙らせりゃよかっただろうが」
ダリー「物騒すぎるんだよな」
シェナ「大丈夫です。今更あなたを変に思う人なんていません。むしろあなたのお話は事態の解決のために、本当に大切な情報です。協力してもらえますか?」
ナナコ「……はい。出来る限り」
ルメリー「じゃあまず寝ろ。事情を話すのは後回しでいい。これだけ人がいりゃ安心して眠れるだろ」
キュネー「あ! 寂しいならわたしが話相手になってあげるね!」
ナナコ「……ありがとう。あの、皆さんも気をつけてくださいね」
ルメリー「は。誰に物言ってんだ?」
◆屋内・彼方
ルメリー「――どう思う? ナナコがこの虚界を作り出してる魔王ってことなのか?」
シェナ「そう断言してしまうにしては前例がなさすぎますね。クウロさんの観察結果でも、彼女には逸脱した要素がないとされていますから……」
キヤズナ「身体能力だとか、知的能力だとかの逸脱なら観察すりゃ分かるだろうな。だがあの子の場合は見えることが逸脱だ。そういう奴が魔王になって虚界を構成しているなら、見えているもの自体を
シェナ「いいえ。見えることが逸脱なら、
キヤズナ「言っとくが、アタシは"彼方"をなんでも知ってるわけじゃねェんだ。そういうのはシンジの奴が戻ってきてから聞きな」
ルメリー「ナナコから話を聞くのも、クウロが戻ってからがいい。あいつが居合わせれば、少なくともナナコが嘘をついているどうかは判別できるしな」
シェナ「では、もう一つ気にかかっている点を」
シェナ「どうして、この家だけは無事なんでしょうか?」
ルメリー「……確かに。どこから出てくるか分からない
シェナ「物事には必ず原因があります。魔王にとって、この家は何らかの特別な意味を持つ場所だということ……」
キヤズナ「だったらナナコが魔王って結論でいいんじゃねェか? どのみちクウロにあいつの話を聞かせてやりゃ本当のことはハッキリするだろ」
シェナ「はい。けれど魔王だということが判明したとしても、殺害は最終手段にするつもりです。彼女とは友好関係を築く余地があり、また、悪意を持ってこの現象を制御している可能性も非常に低いと考えます」
キヤズナ「アタシもそこまでしろとは言ってねェ。貴重な生きた"
ダリー「本当に狂ってる可能性は? 嘘をついていたって、その自覚がないことだってあるだろ」
シェナ「……恐らくですが、本人すら自覚がないことでも、クウロさんなら見抜けますよ。天眼は私達が考えるよりも、想像を絶する次元の知覚能力です」
ルメリー「その天眼でも見抜けないのが、他人が何をどう見ているかってのは皮肉なもんだな。自分以外の誰かが見てる世界は、信じるしかねえ――」
シェナ「まずは朝を待ちます。事情聴取に先立ってこの拠点周辺の
【戦闘:蠱毒の箱×1 腐犬×4】
◆屋内・彼方
ルメリー「ああ殺った殺った。
ダリー「ルメリーさんが暴れると俺の活躍の余地がねえ! ほとんどナパームを乱射してるメステルエクシルみたいなもんじゃねーか」
ナナコ「す、すごいですね……本当に……映画とか漫画の魔法みたい……」
ルメリー「多分そっちよりアタシの方が凄いぜ」
シェナ「そうでした。"彼方"には詞術ってないんですよね」
ナナコ「あ、はい……詞術の概念は、説明してもらって少し分かった……つもりです。それを踏まえて、聞きたいんですけれど」
ナナコ「そちらの世界に、呪いはありましたか?」
シェナ「の、呪いかー……まあ、ある……と言ってもいいのかな? 民間信仰的な話でいいなら……」
シンジ「ない。ナナコくんは、実効力のある形で知られる体系として呪いがあるのかという話をしているのだろう。そうしたものはない。ぼくやきみの世界と同様に」
ナナコ「……そうですか」
シェナ「それが、何か関係あるんでしょうか?」
ナナコ「私が、この世界に来てしまったのは……呪いのせいだと思うんです」
クウロ「そう判断する根拠があるわけだな」
シェナ「詳しく聞かせてもらえますか?」
ナナコ「……はい」
◆学校(白黒背景)
昔から、私の目は狂っていました。
死んだ人間や……得体のしれない何かを見ることができる第六感、ということなら、少しだけ救いがあったかもしれません。
けれど、私の目に見えているものは、違いました。
本当の霊感を持っている人とも、違うものが見えるんです。
私が見ているのはいつも、そこにいる何かではなくて――ただの、私だけの幻覚でした。けれど私は、それが恐ろしくてたまらなかった。
◆屋内・彼方(白黒背景)
きっと私は病気だったのだと思います。だけど家族にすら、それを相談したことはありません。おかしな人間だと思われるのが怖かったから。
私の目のことを打ち明けることができたのは二人……しかいませんでした。正木先輩と、柘植さん。
◆廃墟・彼方(白黒背景)
柘植さんは霊能者でした。信じてもらえるかは分かりませんけれど……本物の。視線を向けるだけで呪いを祓ってしまえるような人で、きっと、この世で一番すごい霊能者だったと思います。
正木先輩は、私の目のことや、私の恐怖を面白がって、私を何度も何度も恐ろしいところへと連れ出しました。私は、正木先輩のことがすごく嫌いでしたけれど、あの人が隣にいると、なぜか恐ろしい夜でも私は歩くことができました。
けれどあの日、正木先輩は、私の家の物置を調べてみたいと言い出して――
何もかもが狂ってしまったのは、それからでした。
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