チャプター3
◆屋内・彼方
(唸り声・異形)
半分だけの男「ご、ごごごじさんじゅっぷんに、ななりましましまし……」
指の塊「ぢっ、にぢっ、ぎぢぢっ」
顔「………………………」
ダリー「ナナコの言った通りだ。数はむしろさっきより少ないくらいだが……」
ダリー「……まずい気がする。外に出なくて正解だったぜ」
シンジ「それって結局、直感とか感情が根拠なのか?」
シンジ「戦力的にこちらが勝てない道理はないはずだ。強引にでも突破すればいいだろう」
ナナコ「……駄目です! だって、半分の男についていくと……」
シンジ「どうなるんだ?」
ナナコ「く、暗い……夜中のどこかに消えて、戻ってこれなくなる……分かるんです。戦えばどうにかなるとか、そういうことでは……なくて……」
シンジ「話にならないな。
クウロ「……俺は」
クウロ「朝を待ったほうが……いいと思う」
キュネー「大丈夫? クウロ……すごい汗だよ」
クウロ「こんなのは……初めてだ。知覚できないわけじゃない――気味の悪いものを知覚できすぎる。この
キヤズナ「オイ小娘! あの話はどうなった!
シェナ「ごめんなさい。クウロさんの観測と矛盾することを言いますけれど」
シェナ「何も、異常は、ありません。空間の微小な歪みが発生していないんです。……ごめんなさい。この虚界は、私の理解を超えています……」
ルメリー「おいおい、冗談だろ。この二人が揃ってて何も分かりませんって、この現象を解析できるやつはこの世に誰もいないってことじゃねーのか!」
シェナ「朝を待ちましょう。少なくとも夜でないなら、
ルメリー「シェナ……」
クウロ「……見張りに出る。夜の間は油断できないからな」
◆住宅街・彼方
クウロ(全て見える。
クウロ(だが、俺以外は見えていない。俺の天眼は味方の人数が多いほど、守るには向かない力だ――)
シンジ「その天眼は未来まで見えるらしいな」
シンジ「ぼくがこうして接触することも見えているわけか?」
クウロ「――そうだ。だが、別に天眼の力で見たわけじゃない。俺に話したいことがあるんだろう、"
シンジ「まあ、別に意を消してたわけじゃないしな……盤上じゃないと、どうもぼくは本気になれない。聞きたいことは一つだ」
シンジ「ナナコは魔王じゃないのか?」
クウロ「――いいや。それは違うはずだ。俺が見る限り、彼女の肉体に逸脱した要素は一切ない。会話すれば詳細に分かると思ったが、お前のように知的能力の逸脱があるわけでもなさそうだ」
シンジ「ぼくなら、彼女に同情して、嘘をついている……という可能性を考える」
クウロ「縁のない"彼方"の人間を庇う理由がない。そもそも彼女は
シンジ「……だが嘘をついている。そうだな?」
クウロ「……。そうだ」
クウロ「あんな怪物がいるなんて普通じゃないと答えたのは、嘘だ。つまりナナコは普段からこの状態で生活していたことになる」
シンジ「先に答えておくが、"彼方"でこれが普通などということはあり得ない。逆に、こんなことが常識として罷り通る分岐が虚界化したというなら、ナナコには普通を装うという発想すら出てこないはずだ」
クウロ「普通の世界を知った上で、そう装おうとしている……か」
シンジ「ぼくは、ナナコに外部から観測不能な何らかの逸脱があると判断する。
クウロ「俺にナナコの始末をやらせるつもりで、この話をしたのか」
シンジ「それくらい話す前から分かってくれないかな……。きみなら全員の目をかい潜って、外傷もなく殺せるだろ?」
クウロ「……フ。フフフ」
クウロ「舐めるなよ。俺はもう二度とそんな真似をしなくてもいいように、この仕事をしてるんだ。やはりお前の性根は変わらないな、"
シンジ「ぼくはきみに直接関わったわけじゃない」
クウロ「そうだな。お前が霧の手のレヘムや仮声のティークスを殺した時、俺は"黒曜の瞳"じゃなかった。だがどちらも俺の仲間だ。……契約に反して彼女らを殺したお前を恨むつもりはないが、信じることもできない」
シンジ「ふうん。まあ、きみがどれだけ不合理な考え方をしてるかはよく分かった……無理に従わせる力がぼくにあるわけじゃないしな」
クウロ「お前の作戦が本当に理に適っているなら、シェナ卿に伝えればいい」
シンジ「そんなことくらい分かっていてくれ。彼女は確実に反対する」
クウロ「いいや。シェナ卿はお前のことを信じると言った。どんな答えを返すにせよ、ナナコを殺す話を真剣に検討するはずだ。俺に直接話を持ってきたのは……お前自身が彼女に民間人殺しを背負ってほしくないと考えているからだ」
シンジ「……作戦会議や実行者の選定が煩雑だからだ。最初から、一番の適任者に頼む方が早いと考えた。それとも、それが天眼の見立てなのか?」
クウロ「かもしれないな」
シンジ「生きた駒はやっぱり面倒くさいな……いやがらせをする」
クウロ「……そろそろ戻れ、"
シンジ「へえ……そういうことなら、ここで眺めていようかな」
クウロ「やめろ。お前は足手まといだと言ってるんだ。何のつもりだ?」
シンジ「何のつもりだと?」
シンジ「いやがらせだ」
【戦闘:のっぽさま×3】
◆屋内・彼方
(唸り声・異形)
崩れた女「わかったでしょ? わかったでしょ? わかったでしょ? わかったでしょ?……」
ルメリー「マジで不気味だなあいつら。生きた人間を探してる様子でもないっていうか……最初から正気じゃないって感じだ」
キヤズナ「心がぶっ壊れた魔族みてェだな。心を持たせるのに半端に失敗するとああなる。もちろんあれが魔族とも思わねェがな」
ダリー「へえ、さすがの婆さんでも魔族生成に失敗したことがあるのか?」
キヤズナ「バカ言え。アタシは一度もそんなことねェよ。失敗するのはアタシ以外の雑魚どもだけだ。おい小娘! ……って小娘が二人いんのか、シェナ!」
シェナ「は、はい。どうしましたか?」
キヤズナ「この後の方針の話だ。
シェナ「なるほど。
キヤズナ「ワケの分からないモンには付き合わねェに限る。やってもいいなら設計に取り掛かるぞ。早いほうがいい」
シェナ「はい。虚界内部の
ダリー「おいおい、そんなにあっさり解析諦めていいのか!? あのクウロと局長殿がせっかく揃ってるんだろ!?」
シェナ「ええ、ですから、私達二人がかりで無理ということは、無理なのだと判断しました。それは多分、クウロさんも理解してくれると思います」
キュネー「ね、クウロはこれからどういうお仕事になるの?」
シェナ「ナナコさんを発見したのと同じ要領で、虚界内部の都市全域の索敵を行ってもらおうと思います。戦車機魔で街を回って……あとは生存者に呼びける手段もあればいいかな……」
キヤズナ「ここまで来る途中、拡声器がくっついてる塔を見かけたな。そういう設備があるッてことは、ある程度公共性の高い仕組みで無線放送ができるようになってるはずだ。そいつを使うのはどうだ」
ナナコ「それって、市内放送……ってことでしょうか?」
シェナ「知っているんですね? どこから放送できるかは分かります?」
ナナコ「え、えっと……すみません。全然わからないです。市役所かな……消防署って聞いたような気もするし……」
ルメリー「シンジの野郎を連れてきておいてよかったな。そもそもこの街の何が市役所で何が消防署なのかなんて、あたし達だけじゃ絶対分からねーよ」
キヤズナ「こういう方面の知識ばかりはアタシでも無理だな」
ナナコ「あ、あの……街を、壊すんですか?」
シェナ「そうなるかもしれません。いやですか?」
ナナコ「いえ……。だけど、もしかしたら……そこまでしなくても、いいのかもしれなくて……」
キュネー「どういうこと?」
ナナコ「
シェナ(……やっぱり、そうだったんだ)
ナナコ「私はおかしいんです。私の頭の中から……化物が、出てきているのかもしれない」
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