チャプター2
◆廃墟・住宅地
シンジ「間違いない。あれは日本の町並みだな……ごく普通の住宅街に見える。軍事施設があるようにも見えないが……」
クウロ「やはりそうか。俺一人が判断するより、"
キュネー「ね、街を見下ろせる建物はわたしが見つけたんだよ!」
シェナ「この辺りの廃墟はルノーグ市に放棄された旧鉱山施設みたいですね。人的被害がなかったようで本当によかったです」
クウロ「だが、放置しておくわけにはいかない。前例がない特性の虚界である以上、予想外の挙動を示す可能性が高いからな」
ルメリー「それって例の、出たり消えたりする
クウロ「それもある。だが、それよりも大きな懸念点は……
ルメリー「魔王が、いない……?」
クウロ「これが最初から魔王の存在しない虚界であるなら……事態を収束させるためには、全ての
キヤズナ「フン。だから境界演算のできるシェナを駆り出したってわけかい。魔王もいない、
シェナ「えっと……あれはたまたま色んな条件が重なっていたからできたことで……普通なら境界を修復することなんて現実的な話ではないんですけれど……」
クウロ「分かっている。だが虚界発生の兆候を演算できるシェナ卿なら、同じ原理で発生する"
ルメリー「できるからどうだってんだよ。この虚界はもう完全に出現しちまってるんだろ? "
クウロ「……俺が見てもらいたいのは向こうの世界から来るものじゃない」
シェナ「世界間転移がこちらの世界からこちらの世界の間で発生しているかもしれない――とクウロさんは考えたわけですね?」
ダリー「おいおいどういうことだ? 全然意味が分からねーぞ」
クウロ「出現と消失を繰り返す
ダリー「消えて現れるまでの間、別の世界を抜け道みたいに使ってる……ってことか? 俺には難しいことは分からねーが……局長さん、そういうことってあるもんなのか」
シェナ「知る限りでは、ありません。それだけ大量の転移が発生しているなら、もっと巨大な影響が出ていないとおかしい……私が測量した限り、今回の虚界が及ぼしている歪みはこの規模の通常の虚界とほぼ同じか、やや小さいくらいです」
クウロ「……信じよう。だが、俺の仮説を撤回するつもりもない。それがこの世界に存在している限り、天眼で捉えられない存在はない。今回の調査では、まずこの矛盾を解明する必要があると考える」
シンジ「二人とも大した自信だな……。よく、そこまで自分の見ている世界を信じられるものだ」
キュネー「クウロの天眼はすごいんだよ!」
シェナ「あはは……私はただ計算が速いだけですから、他の人でも普通にできることなんですけれどね。やってることは簡単なんですよ。現地で目視すれば12個中8個の変数はおおよそ確定しますから、あとは……」
シンジ「そういうことじゃなくて。きみたちの主観でしか分からないということは――二人のうち誰かが裏切っていても、誰にも分からないってことになる」
シェナ「……」
クウロ「……裏切りだと。よくその言葉を口にできるな。
シンジ「気分を害したのか?」
ルメリー「……やめろお前ら。つまんない喧嘩すんな! どうせ殺し合いするわけでもないんだろ」
シェナ「シンジさんは、もっと根拠の確かな事柄をもとに作戦を立案すべき、という立場なんですね。私も、可能な限りそうあるべきだと思っています」
シェナ「けれど人間なら誰だって――指揮官ならなおさら、現場の人達の話を信じて動かなければいけない時がありますよね。自分が直接全部を確かめられれば一番ですけど、そんなことは現実的に不可能ですから」
シンジ「……生きた人間は間違いを犯す。ぼくにとってはそれが大前提だ」
シェナ「はい。だけど間違ってしまった時でも、その結果も含めて私だけで判断して間違うよりはよいと思っているんです。そういう意味で、私はシンジさんのことも、クウロさんのことも信じています」
シンジ「……」
クウロ「悪いが、すぐに虚界内まで踏み込みたい。一名、要救助者がいる。現時点ではまだ安全が確保されているが、俺の仮説が正しいなら、
キヤズナ「要救助者? つまり、境魔化していない……“彼方”の人間ってことか! そりゃぜひとも取っ捕まえてえな。頭のいいヤツが欲しい」
シェナ「対象が魔王である恐れは?」
クウロ「ない。もっとも、俺が判断した限りだが」
シェナ「わかりました。救助作戦を決行します。シンジさんから異議はありますか」
シンジ「
ダリー「よし。
ルメリー「おっ、ようやく暴れる話か? そう来なくちゃな」
ダリー「救助だって言ってるのにこの人は……」
【戦闘:腐犬×5】
◆屋内・彼方
(破壊音)
ルメリー「オラッ生きてるやつはどこだ! 死んでるならそう言えよな!」
少女「……う……」
クウロ「ルメリーさん、騒がないでくれ。眠っている」
クウロ「今ので目が覚めたか? 自分の名前を言えるか?」
少女「……あなたは? 嘘みたい……みんな、まともな形をしてる……」
クウロ「俺の名前は
キュネー「わたしはキュネー! あなたは?」
少女「あはっ、ははは……嘘。妖精……? こんなの見たことない……。私は……
ナナコ「……ありがとうございます。ずっと怖くて……もう、死ぬまでここから出られないんじゃないかと……」
シェナ「よく生きていてくれました。私は
ナナコ「……お願いします。そこの人は……」
シンジ「?」
ナナコ「そこのスーツの人も、私と同じような、避難民ってことなんですか?」
シンジ「――ああそうか。ぼくだけ日本人だもんな。結論から言うと、ナナコ。ここは異世界だ。きみが巻き込まれた転移現象の歪みによって、空間や生物の大半が異形化している状況にある……」
シェナ「ええと、要約するとですね。脱出するまで、怪物から君を護衛する必要があるということです。あと、私達は君とは別の世界の住人ということになりますね」
ナナコ「……そう、ですね。ああいう怪物がいるなんて、本当に……普通じゃないですよね」
クウロ「……」
ルメリー「で、どうすんだシェナ? 全員でそのガキを護送すんのか? それとも誰か適当なやつに任せて残りで調査を進めるか?」
シェナ「情報収集を優先する方針ですが、この場で聞き出せる話は聞いてしまってから送り届けた方がいいでしょう。護送役はキヤズナさんとダリーさんにお願いします」
ダリー「婆さん一人だと"
キヤズナ「ああ!? 人聞きの悪いこと言うんじゃねェよ!」
ダリー(事実じゃん……)
ナナコ「……いえ。皆さんは誰も、この家から出ないほうが……いいと思います。もっと……今よりも恐ろしい怪異が、街の全部を埋めつくしてしまう……」
クウロ「どういうことだ?」
ナナコ「夜が」
ナナコ「――夜が、来ます」
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