チャプター1
◆戦車機魔・車内
シンジ「……そろそろ到着か。速いな」
シェナ「そうですね。キヤズナおばあちゃんの
キヤズナ「ケッ、せいぜい感謝しな! やっと自由の身になれたってのに、お前みたいな小娘の言うこと聞いて来てやってんだ……」
キヤズナ「何も面白いモン出てこなかったらブッ飛ばすぞ!」
シェナ「えへへ、ありがとうございます。でもこういう事例だったらおばあちゃんが一番頼りになるかなあって……」
シェナ「なにしろ"彼方"の虚界なんです。"彼方"の兵器に関しては、キヤズナおばあちゃんは"
シンジ「ぼくは向こうでは軍人でもなんでもなかったからな。もっとも、文化や交渉だって専門分野じゃないが……」
シェナ「それでも、戦術面で頼れる人がいるだけで私の仕事はすごく楽になります。参謀としての働きに期待していますよ、
シンジ「戦術ね……面倒すぎる……」
ルメリー「"
ダリー「おいおい、忘れてくれるなよ。これでも俺は婆さんの護衛だ。それに、この前作ってもらった銃をそろそろ試したくてね」
ダリー「黄都軍で出世するには、こういう機会をうまく使って腕前を買ってもらわなきゃな」
シンジ「……
ダリー「そりゃ、さすがの俺でも突然消えたり現れたりする境魔 《ダブル》の頭をぶち抜く自信はねえよ。でも、そういう兵器の解析のために婆さんがいるんじゃないのか?」
シンジ「いいや。"彼方"の技術に姿を消してしまえるような代物はない。ぼくの知る限りだが」
シェナ「……え? そうなんですか?」
キヤズナ「自分の背後の映像を投影したり光を回析したりする技術も、あり得ないことはないさ。光学迷彩ってやつだ。ただ、"彼方"のやつは個人が戦闘で使うには非効率的なモンばっかだねェ~。お遊びみたいなもんだ」
ルメリー「そうはいっても、分岐次第でそういう技術が一般普及した世界っていうのはあるんじゃねーのか? "彼方"なんだしなんでもアリだろ」
シンジ「そういう可能性は否定できないけどな。少なくとも、すごく効率の悪いことだと思う。"彼方"の世界が必然性もなしにそういうことをするようには思えないな」
ルメリー「ヒャハ! それじゃあ
ダリー「おい、来たぞ! 後方から真っ直ぐ追ってきてる!」
シェナ「……! そうみたいですね! 全員戦闘態勢をお願いします!」
キヤズナ「後方だと!? あり得ねェ! ダリー、目が腐ったか!」
ダリー「何がだ!? 急に出現するのは報告にあった通りの特性だろ! 迎撃する!」
キヤズナ「そいつらはXバンドレーダーに映っていない! 電波を反射していないってことだぞ!」
ルメリー「ヒャハハハハハ! いいね。わけのわからねェ連中ほど……焼き殺しがいがあるッ!」
【戦闘:たたりがみ×1 腐犬×2】
◆廃墟・住宅地
ダリー「……見た目はバケモノじみてるが、十分に破壊すれば死ぬみたいだ。この分じゃ普通のショットガンで十分だったな」
ルメリー「けれどしつこい連中だったよなー。結局目的地まで進みながら戦う羽目になっちまったじゃんか」
シェナ「とにかく見たことがない種ですので、感染症などには気をつけてくださいね。回収した死骸は後で国防研究院に解剖してもらいます」
キヤズナ「……小娘。そいつらは、ヤバいぞ」
シェナ「えっ、私はむしろ無事に調査できそうで安心してたんですけれど……」
キヤズナ「レーダーの件だけじゃねェ。全部の電磁波を反射しないなら、可視光線だって通り抜けて目には見えねェはずなんだ。そいつらは生物としての構造も、なんて言ったらいいのか……一貫性がない。普通は、こんな風にはならんのさ」
シンジ「……同感だね。少なくともぼくが来た世界に、こんなやつらはいなかった。仮に
シンジ「"彼方"の知的生物は人間しかいないんだ」
シェナ「わかりました。"彼方"において大規模な分岐が発生した可能性を考慮します。虚界内部を調査すれば、より確かな手がかりを得られるはずです」
ダリー「その前にそこから下がれ、局長殿。あっちから誰かが近づいている」
キヤズナ「いいや。そいつならレーダーに映ってるよ。撃つ必要はないね」
クウロ「――まったく。相変わらず面倒な連中ばかり引き連れているな。局長」
シェナ「クウロさん! キュネーさん!」
キュネー「ね、久しぶりだね、シェナ!」
クウロ「とても面倒だが……今回ばかりは、あんたの計算能力が必要かもしれない」
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